トランプ大統領がイラン攻撃の継続を明言したことを受け、原油先物価格が急上昇した。トランプ大統領はイラン攻撃について中核的な戦略目標はほぼ達成されたとしつつも、向こう2~3週間で激しい攻撃を実施するとした。

前日にはトランプ大統領が攻撃終了を示唆する可能性が意識されていたが、これが裏切られることになり、株式市場ではダウ平均がまとまった幅で下落する局面もあった。もっとも、イランがホルムズ海峡を通過する船舶を監視するため、オマーンと協定案を策定しているとBloombergが報じたことにより、株価は持ち直した。

ホルムズ海峡が封鎖された状態が続けば、イラン側の損失も大きくなるため、引き続き状況は改善方向に向かっていると言える。株式市場は雇用統計と3連休を控え、最終的には小幅な動きにとどまった。

原油価格がまとまった幅で上昇したにもかかわらず、債券市場は比較的落ち着いた動きが続いている。この日も、米国の長期金利は前日差▲1.4bp、2年金利は同▲0.5bpと小動きだった。原油高が進んだことで、10年インフレ予想(BEI)は同+2.2bpと小幅に上昇した一方で、10年実質金利が同▲3.6bpと、まとまった幅で低下した。

そもそも、BEIはレンジ内で推移しており、長期のインフレ懸念は生じていないのだが、最近は原油高が進むと景気悪化不安が生じ、実質金利に低下圧力がかかる動きが目立っている。結果的に、名目長期金利はあまり動かない。米経済がそれほど強くないという見方から、①原油高が長期的なインフレにつながるという見方が生じにくく、②かえって景気が悪化する可能性が不安視されている、ということだろう。今後の焦点は、おそらくイラン情勢が徐々に改善していく中で、②景気悪化懸念が緩和されるか否かとなるだろう。筆者は、株価がまとまった幅で低下したことにより、資産家の消費が弱まり、しばらくは弱めの経済統計が続くと予想している。FRBはインフレ動向を見定めつつ、景気悪化不安に対処するために夏頃(早ければ6月、おそくとも9月)には利下げを再開するだろう。

ウィリアムズNY連銀総裁の発言から分かるFRBの余裕

報道によると、ウィリアムズNY連銀総裁はエネルギー価格の波及効果が他の価格に完全に影響を及ぼし始めるまでには、通常は数ヵ月、場合によっては1年かかるとし、現在の状況を注視していると述べた。

また、現行の金融政策は、適切な位置にある、とも述べた。FRBは現在の政策金利の水準(3.50-3.75%)は中立金利よりはやや高いものの、中立金利に近い水準にあると評価している。また、インフレ予想が高まっていないため、利上げを急ぐ状況でもない上に、米経済はこれまで堅調に推移してきたことから、利下げを急ぐ必要性にも乏しい。

日銀やECBはおそらく通貨安によって原油高の影響が増幅される(輸入物価が上がる)ことを恐れており、タカ派アピールを優先しているとみられるが、FRBは有事のドル買いによってドル高が進んでいる。為替市場の動きも、FRBの余裕につながっているとみられる。当面、FRBは今後の金融政策に対してニュートラルな姿勢を続けるだろう。

FRBのバランスシート縮小は穏便に済ませたいローガン総裁

この日、ローガン・ダラス地区連銀総裁が講演を行い、FRBのバランスシートに関する現在のシステムは上手く機能していると述べた一方、バランスシート縮小に向けた選択肢についても示した。

ローガン総裁はNY連銀でFRBのバランスシートを管理する業務を担っていたことから、バランスシート政策に関する発言の注目度は高い。ローガン総裁は、FRBのバランスシートが依然としてGDP対比で21%の規模にあることに触れ、コロナ前には19%だったことから、「規模が過大ではないか、もしそうならどのように縮小すべきかについて、多くの議論を呼んできた」と述べた(筆者訳。以下同)。

その上でローガン総裁は「我々は常に経済が求める以上の流動性を供給することは可能だが、需要を満たさなければ、金融的な圧力が生じることになる」とし、現在の十分な準備預金を維持する方針(アンプル・リザーブシステム)を支持した。その上で、バランスシートを縮小する(準備預金を減らす)場合、「銀行の準備預金需要を減らすアプローチを支持する」とした。

具体的には、FRBがバランスシートを能動的に縮小することは、「銀行に準備預金の節約を強要することは、金融システムのリスクを高めるだけだろう」とし反対のようである。逆に言えば、銀行が自ら準備預金を必要としない状況になれば、自然と(リスクなく)バランスシートを縮小することが可能だろうという立場である。

そのためにできることとして、ローガン総裁は「銀行は自ら保有することを選択した準備預金に加え、流動性規制や監督当局の期待を満たすために、しばしば追加の準備預金を保有している」ことを指摘し、規制緩和によって銀行の準備預金需要を減らすことを解決策の1つとして挙げた。

また、ローガン総裁は「FRBの流動性ツールをより利用しやすくすること」も有益であると指摘した。銀行が「最後の貸し手(Lender of Last Resort)」としてFRBのツールを信用できれば、予備的に準備預金を保有する必要性が低下するという考えである。

なお、ローガン総裁は日銀や欧州の中央銀行が実施してきた準備預金付利の「階層化」(準備預金の一部に対して付利を課すこと)については、「割当枠は一種の中央計画である。政府が自由市場に委ねるのではなく、民間企業の間で貴重な資源を配分することになるのだ。それがイノベーション、成長、競争に及ぼしうる弊害については、改めて説明するまでもないだろう」と否定した。

FRBの次期議長の候補であるウォーシュ氏がFRBのバランスシート縮小を主張していることから、ローガン総裁の議論は注目されるだろう。バランスシート縮小の可能性について検討されたことは、ウォーシュ氏への配慮と言える。

もっとも、ローガン総裁は十分な準備預金を維持することで、市場へのストレス最小限にすることを最優先している。ウォーシュ氏は、潤沢な資金がウォールストリートに存在することで、ウォールストリートの過度な利益につながり、その結果としてインフレ率が上がっていることを問題視している。

ウォーシュ氏の問題意識は、FRBのバランスシートが大きいことではなく、ウォールストリートにストレスがかかっていないことであり、ローガン総裁の議論は本末転倒だと捉えるだろう。

おそらく、今後も「市場へのストレスをかけたくないFRB(ローガン総裁)」と、「ストレスをかけることでウォールストリ―トが有利な状況を是正したいウォーシュ氏」の意見対立は続くだろう。

むろん、中間選挙を前にウォーシュ氏が市場にストレスをかけることに積極化する可能性は低い。やや中長期的なテーマとしての意見対立が続く公算である。いずれにせよ、今回のローガン総裁の主張はこの意見対立を解決するようなものではなかった。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)