(ブルームバーグ):トランプ米大統領は、イランとの戦争への協力を拒んだとして北大西洋条約機構(NATO)の同盟国を再び批判し、米国がNATOを脱退する可能性にも言及した。
トランプ氏が、米国をNATOから脱退させる可能性は低いとみられる。しかし、NATOの抑止力の根幹は、加盟国の一つが攻撃された場合、世界最強の軍事力を背景とする同盟が直ちに支援に駆け付ける点にある。トランプ氏がホワイトハウスにいる限り、この原則が維持されるかどうかは不透明だ。
NATOの役割とは何か
1949年、NATOは冷戦下で、ソ連の攻撃から欧州を守るために設立された。以来、NATOは政治・経済の共通の価値観に基づく、北米と欧州の基本的なパートナーシップの象徴となってきた。
NATOの目的は、想定される攻撃に備えて防衛面での連携を図ることにある。加盟国は当初は12カ国だったが、現在は32カ国に拡大している。

NATOの中核とされるのが、北大西洋条約の第5条だ。相互防衛の義務を課すもので、一つの加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃と見なされると規定している。そうすることで、NATO加盟国に攻撃を仕掛けることのコストを引き上げ、抑止力を高めることができる。
ただし、同盟国による集団防衛が発動されるためには、単に加盟国への攻撃があるだけでは不十分だ。まず全会一致で第5条の適用事態であると認定し、その上で対応方法を決定する必要がある。
攻撃を受けた加盟国があれば、ほかの同盟国は個別または共同で支援することになる。その支援には武力行使が含まれるとしつつも、義務付けてはいない。
過去に第5条が発動されたのは、一度しかない。2001年9月11日の米同時多発テロを受けて、NATOは早期警戒機を用いて米国上空の警戒任務を支援した。
米国にとってNATO脱退は現実的な選択肢か
法的には、トランプ氏の選択肢は限られている。
米国の法律では、上院の3分の2の同意または議会による新たな立法がない限り、大統領がNATO条約の停止・終了・離脱を行うことを禁じている。これは、当時上院議員だったルビオ国務長官が主導して、2023年に成立した法律だ。
共和党内にはNATO支持派もおり、NATO脱退に必要な賛成を得られる見込みは乏しい。
とはいえ、トランプ氏が望めばNATOの機能を弱める手段は存在する。
トランプ氏がNATOを弱体化させる他の手段は
トランプ氏は、NATO本部から米国大使や職員を引き揚げたり、軍事演習や情報共有プログラムへの関与を打ち切ったりする可能性がある。
さらに、軍事支援や任意拠出の実施を遅らせるほか、過去に示唆してきたように、防衛支出目標を満たす同盟国のみを防衛対象とする選択もあり得る。加えて、現在約10万人とされる欧州駐留米軍の規模を縮小する可能性もある。
さらに踏み込めば、第5条に基づく派兵を拒否したり、欧州諸国を守る米国の核の傘を撤回したりする可能性もある。
2026年国防権限法は、大統領に一定の制約を設けている。同法は、欧州駐留米軍を7万6000人未満に45日以上削減する場合や、NATO欧州連合軍最高司令官の職から米軍将校を外す場合には、国防長官がそれが国家安全保障上の利益にかなうと議会に証明し、NATO同盟国とも協議することを義務付けている。
また、NATO条約からの離脱を進めるために、議会の承認なしに連邦資金を使用することも禁じられている。ただし、トランプ氏はこれまでも議会の承認なしに資金の使途を変更してきた経緯があり、正式な離脱を伴わずに部隊の再配置を行うことは可能とみられる。
米軍による基地使用を欧州諸国は認める義務があるのか
一部の同盟国は今回、イラン攻撃のために米軍機が自国基地を使用することを認めなかった。これが、トランプ氏によるNATO批判が強まった背景となっている。
米国は、欧州各地に軍事拠点を展開している。これらは同盟国の防衛だけでなく、欧州を超えて軍事力を及ぼすためにも、日常的に使われてきた。
一方で、NATO加盟国が米軍に対し、自国の軍事施設への無条件のアクセスを認める厳格な義務は存在しない。あくまで二国間協定や条約に基づいて、国内法および国際法に従って使用が認められる。

イタリアは3月、米軍機がイタリア国内の基地に着陸することを認めなかった。米国から戦闘利用に関する要請が届いた時点で、米軍機はすでに飛行中であり、議会で必要な審議の時間が確保できなかったというのが理由だ。
スペインは、米国とイスラエルによる対イラン戦争が国際法に違反すると判断し、それらの軍事作戦に関与する米国機の自国上空通過を禁止した。
英国もイランに対する初期の攻撃において、出撃拠点としての基地使用を認めなかった。スターマー首相は「違法な行為に自国の軍人を関与させることはしない」と述べた。
トランプ氏は以前からNATOに不満を持っていたのか
トランプ氏は長年、NATO同盟国が米国の安全保障にただ乗りしていると主張してきた。自国の防衛支出を抑えつつ、米国の強大な軍事力に安全保障を頼っているという考え方だ。これは、同盟国は米国に恩義があるのだから、米軍の活動を妨げるべきではないという発想につながる。
またロシアのウクライナ侵攻についても、欧州のNATO加盟国が対処すべき問題だとトランプ氏は訴えてきた。ウクライナへの支援も、しぶしぶ維持してきたに過ぎない。
トランプ氏によるNATO批判の影響は
昨年6月、NATO加盟国は、防衛費支出を国内総生産(GDP)比5%に引き上げる新たな目標で合意した。これを受けてトランプ氏は、集団防衛を定めた第5条について「支持している」と明言し、NATO批判を控える姿勢を見せた。
しかし、同盟国に対する厳しい批判は、すでにNATOの信頼性を損なっている。
安全保障危機の際に米国が必ず対応するという前提は、NATOの抑止力の中核だ。これが揺らげば、とりわけ欧州東部の加盟国は、ロシアからの圧力にさらされることになる。西側の情報機関は、ロシアが数年以内にリトアニア、ラトビア、エストニアといったバルト諸国などの脆弱な地域で、NATOの防衛体制を試す可能性があると警告している。
欧州にとって何が懸かっているのか
欧州の首脳らは、米国がイランとの戦争に踏み切るにあたって、事前通告がなかったことに不満を示している。いざ戦争となれば、エネルギー価格の上昇による影響の多くを欧州が被る可能性が高いためだ。
一方で、米国への批判を強めればそれだけ、トランプ政権がウクライナへの支援を打ち切り、NATOへの関与を縮小するリスクが高まるという面もある。
トランプ氏が米国の従来の世界安全保障の担い手としての役割を放棄するなかで、ロシアのプーチン大統領は近年、軍の大規模拡張を進めてきた。
欧州の防衛支出増加が実際の軍事力強化に結び付くには数年を要し、その後も大規模紛争における米国の調整能力や監視・偵察能力を代替できるかは不透明だ。また、軍備増強のための資金の一部は、トランプ氏が打ち切ったウクライナ向け資金の穴埋めに充てられる必要がある。
原題:Trump Is Forcing NATO to Confront Its Big Assumption: Explainer(抜粋)
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