(ブルームバーグ):イラン戦争で、原油・天然ガス輸送の要衝ホルムズ海峡が事実上封鎖されているが、サウジアラビアからアジアに原油が送られる代替ルートの紅海が使えることで、原油市場の混乱は一定程度抑えられてきた。
だが、イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、2023年後半から約2年間にわたり、この重要な水路の通航を大きく制限していた。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦への対応として、紅海南部とアデン湾を結ぶバベルマンデブ海峡付近で商船や軍艦を攻撃し、新型コロナウイルス禍以降で最大級の貿易混乱を引き起こした。
米国とイスラエルによる対イラン戦争を受け、フーシ派の動向に再び注目が集まっている。3月25日にはイランのタスニム通信が新たな戦線が開かれる可能性があると言及し、米政府も紅海の船舶に対するフーシ派の脅威について改めて警告を発した。
フーシ派は紅海の船舶にとってなお脅威か
脅威は残っている。フーシ派はこの10年にわたり米国やイスラエル、英国、サウジ主導の連合から断続的な攻撃を受けてきた。弱体化したものの、壊滅には至っていない。このため、西側の多くの海運会社は依然としてイエメン周辺海域への航行を避けている。
紅海沿岸の険しい地形は、フーシ派が兵器を隠すのに適している。昨年、米国やイスラエルによる空爆で指導層や装備の多くが失われたが、フーシ派の活動に詳しい地域の当局者によると、同派は再編や少なくとも一部で再武装を進めている。サウジや、かつてはアラブ首長国連邦(UAE)が支援した対抗勢力もフーシ派を拠点から排除することに失敗しており、同派はイエメン西部ホデイダなど重要港湾を含む紅海沿岸の広い地域を支配し続けている。
また、先端ミサイルの輸送が一部阻止されているものの、フーシ派は武器調達をイランだけに頼っているわけではない。国内の密輸ネットワークや中国などの防衛関連輸出拠点との商業ルートを活用し、独自の兵器製造能力も拡大している。
フーシ派による紅海攻撃、どのような影響があるのか
米国防総省によれば、フーシ派は23年11月から24年6月にかけて190回以上、軍艦や商船を標的にした。継続する脅威により、多くの船舶は紅海やスエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を経由する長距離航路を選択している。
フレックスポートによると、この迂回(うかい)ルートは、航海時間が紅海経由に比べて最大25%長くなり、コストも増加する。また、紅海を通過する場合でも保険料の上昇により費用は増えている。それでも、紅海は原油や天然ガスなどの重要な輸送ルートであり、国際通貨基金(IMF)とオックスフォード大学のデータによれば、23年には1日平均約75隻が通航していた。25年には約33隻に減少した。
フーシ派の攻撃再開、世界の貿易にどのような影響をもたらすのか
バベルマンデブ海峡は数世紀にわたる東西貿易の要衝であり、攻撃激化前には世界の海上貿易の約9%が通過していた。コンテナ輸送の約20%、年間2兆ドル(約320兆円)超相当の貨物がこのルートを利用していた。
現在も中東などから欧州への原油・ガス輸送の最短ルートは紅海経由だ。ウクライナ侵攻後の対ロシア制裁により、この航路はロシア産原油のアジア向け輸送でも重要度を増している。
バベルマンデブ海峡が開放されている状況は特にサウジにとって重大で、アラビア半島横断パイプラインで原油を紅海沿岸のヤンブー港に送り、輸出の多くを維持している。ヤンブー経由の輸送は戦前の輸出量の約60%に達し、原油市場の安定を支える要因となっている。
フーシ派とはどのような組織か
正式名称は「アンサール・アッラー(神の支持者)」で、イエメンの首都サヌアを14年に掌握し内戦を引き起こした。北西部サーダ州出身の一族で、イエメン人口の推計約25%を占めるザイド派(シーア派の一派)に属する。
フーシ派は反西側・反イスラエルの立場を取り、米国と欧州連合(EU)がテロ組織に指定している。イスラム組織ハマスと同様、イランから訓練や技術、ドローンや弾道・巡航ミサイルなどの兵器支援を受けている。
23年10月にハマスによる奇襲攻撃を受けたイスラエルが軍事作戦を開始すると、フーシ派もイスラエルに向けて攻撃を開始。その後、商船にも対象を広げた。当初はイスラエル関連船舶に限定するとしていたが、実際には直接関係のない船舶も標的となった。
24年1月に米英がフーシ派拠点への攻撃を始めると、同派は両国の資産全てを攻撃対象とすると表明した。
各国はどのように対応しているのか
米国と同盟国はフーシ派の攻撃以前から海賊行為や密輸対策のため、紅海で共同パトロールを実施していた。23年の攻撃激化を受け、米国は船舶保護のため20カ国以上が参加する国際タスクフォース「オペレーション・プロスペリティー・ガーディアン(繁栄の守護者作戦)」を立ち上げた。
24年初めには米英がフーシ派への空爆を実施。しかし約1年後、フーシ派はガザのパレスチナ人への連帯を理由に、船舶への攻撃再開とイスラエルへのミサイル攻撃を行う可能性を示唆した。
これに対し、トランプ政権は大規模な巡航ミサイル攻撃と空爆で応じた。その後、米国とフーシ派の間で停戦に至ったが、2カ月後にフーシ派が攻撃を再開。ミサイルやドローンなどで商船4隻が標的となり、1隻が大破、2隻が沈没した。
25年後半にハマスとイスラエルが停戦に達した後、フーシ派は作戦の縮小を示唆し、船舶への攻撃を一時停止した。一方、イスラエルはフーシ派が支配するインフラへの攻撃や幹部の殺害を続けた。フーシ派は戦力の立て直しやミサイル在庫の再構築を図る必要があった可能性が高い。
原題:Why the Iran War Makes the Red Sea a Bigger Worry: Explainer(抜粋)
(チャートを追加し更新します)
--取材協力:Brendan Murray、Paul Wallace、Caroline Alexander、Gerry Doyle、高野 遼.
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