ホルムズ海峡がほぼ封鎖された状態が長引くにつれ、世界経済への影響は深刻さを増している。

戦闘が続く限り、ホルムズ海峡の通航が通常通りに戻る可能性は低い。仮に戦闘が終結しても、どの程度の船舶がどれほど早く航行を再開できるかは不透明だ。

世界貿易の重要な「動脈」を再び機能させるためには、なにが必要なのか。米海軍による護衛の難しさは。過去の事例も踏まえながら、整理していく。

ホルムズ海峡にはどんなリスクがあるのか

ホルムズ海峡は、世界で唯一の貿易の生命線というわけではない。マラッカ海峡、パナマ運河、あるいは紅海の入口など、他にも重要な要衝は存在する。

ただし、ホルムズ海峡は世界の海上石油取引の約4分の1を担い、液化天然ガス(LNG)供給の5分の1がこの海峡を通っている。エネルギー分野にとって最も重要な輸送路の一つだ。

ホルムズ海峡を回避できる、ほかの海上ルートは存在しない。政治的にも不安定な中東に位置し、独特の地理条件もあいまって、リスクにさらされやすい。

ホルムズ海峡の全長は約225キロに及び、最も狭い地点で幅はわずか約40キロ。このため、船舶は操船の余地がほとんどなく、沿岸や小型ボートからの攻撃に対して無防備になる。満載のタンカーが最大約14ノット(時速約25キロ)で航行しても、安全に通過するには10~14時間かかる。

水深も比較的浅く、イラン軍にとって機雷の敷設が容易だ。北側のイラン沿岸は山岳地帯で、ミサイルやドローンの発射拠点を隠すのにも適している。

イランは数十年にわたり、ミサイルを蓄積してきた。戦争開始前の保有量は不明で、現在どれほど残っているかの把握は難しい。

また、タンカー攻撃に使用可能なドローン「シャヘド」を数千機規模で保有し、現在も生産している可能性が高い。そのため、イランはホルムズ海峡を通る船舶を容易に標的にすることができる。

どれだけの航行リスクが許容できるのか

ペルシャ湾内にタンカーやばら積み船、コンテナ船が足止めされることで、損失は日増しに拡大している。

戦争に伴う保険料の上昇、乗組員への追加の危険手当、貨物の安全や品質維持にかかるコストも重荷だ。そのため、安全が確保できると判断すれば、できるだけ早い退避を望んでいる。

ただし、どれだけのリスクをとるかは判断次第だ。

ミサイルやドローンの攻撃が続く中でも、ホルムズ海峡を通過した船舶はわずかに存在する。これらはイランや、イランにとって主要な輸出相手である中国と関係がある船舶だ。あるいは、インドの液化石油ガス(LPG)船のように、イラン政府から攻撃対象としない保証を得たケースもある。一部では数百万ドルの通航料の支払いが求められており、支払わなければ危険にさらされる可能性がある。

船舶はイラン側の沿岸に沿うように航行しており、イラン当局の承認を得たルートを通った可能性がある。通常時であれば、安全上のリスクから船舶はイランにこれほど接近して航行することは避けるためだ。ホルムズ海峡を出る船は通常、海峡の反対側を通る。

イランにそうした費用を支払わない場合は、戦闘の沈静化を待つしかない。ブルームバーグの取材に応じた船舶・貨物運航会社3社はいずれも、戦闘が続く限りホルムズ海峡を航行することはないと明言した。

戦闘終結後であっても、イランから安全の保証を得られないことも想定される。その場合、海軍による護衛があれば、安心材料となり得る。

通航量が一定程度回復すれば、供給混乱の緩和や、戦争によって上昇した世界のエネルギー価格は、沈静化に向かう可能性がある。

海軍護衛はどのように進められるのか

軍事専門家によると、海軍が護衛任務にあたる際には、海峡に沿って複数の軍艦を連ね、商船と並走していく形になる可能性が高い。ミサイル、空中ドローン、水上攻撃艇、水中ドローンなどの脅威から護衛することになる。

米海軍は、こうした護衛任務に適したアーレイ・バーク級駆逐艦を投入するとみられる。高性能レーダーと管制システムにより弾道ミサイル防衛を行うことができるイージス艦で、チャフやフレアといった対抗手段も備えている。護衛に同盟国が加われば、英国、ドイツ、フランスにも同様の能力を持つ艦艇がある。

ただし、護衛を始めるにあたっては、まず機雷除去専用の艦艇によって安全を確認することから始めなければならない。これは戦闘停止後でなければ実施できない。西オーストラリア大学のジェニファー・パーカー非常勤教授によれば、この作業には最短でも2週間を要する可能性がある。

機雷除去には小型高速の掃海艇や海上ドローンが用いられる。米国や同盟国はヘリコプターでセンサーを曳航し、機雷の探知や爆破などによる無力化を行うこともできる。

正式な停戦がないまま戦闘が沈静化した場合、米国はまず、ホルムズ海峡周辺にあるイランの軍事設備を破壊しようとする可能性もある。米中央軍はすでに、機雷敷設用のイラン船30隻以上を破壊または損傷させたほか、ホルムズ海峡付近のイランのミサイル施設に対して地下貫通型爆弾を投下したと発表している。

さらに、脅威を探知するために、米軍機による上空監視も不可欠だ。

護衛の難しさはどこにあるのか

ホルムズ海峡はイラン沿岸に近いため、攻撃の探知や迎撃に使える時間は限られる。

最新鋭の艦艇であっても、大量のミサイルやドローンによる一斉攻撃を受ければ、対応能力を超える恐れがある。実際、これまでにも地上におけるイランの攻撃では、一部のミサイルやドローンが最新鋭の防空網を突破するケースがみられる。

護衛をしたとしても、通航が完全に正常化する可能性は低いというのが専門家の見方だ。

ホルムズ海峡では、平時には毎日140隻近くが行き交う。しかし米海軍単独では、これらをすべて護衛できるだけの数の艦艇を持ち合わせていない。

戦闘が終結すれば、多国籍連合による対応が不可欠になると、西側の防衛当局者たちはみている。こうした事情を踏まえると、同盟国がトランプ大統領の呼びかけに応じ、自国海軍を投入する可能性がある。

また、護衛体制が整っても、通常時と同じだけの数の船舶を通航させることができるとは限らない。航路が過密になれば、死角が生まれるリスクがあるためだ。また迎撃するにあたり、商船が邪魔になる可能性もある。

ホルムズ海峡内にとどまらず、ペルシャ湾内まで護衛の拡大を求められる可能性もある。この場合、護衛範囲は最大で約560カイリ(約1040キロメートル)広がることになる。

ホルムズ海峡での護衛作戦に、前例はあるのか

■プロスペリティ・ガーディアン作戦

2023年12月、米国主導の海軍連合は、紅海と、そこからインド洋に抜けるためのバブ・エル・マンデブ海峡で商船を護衛する作戦を開始した。イエメンのフーシ派による攻撃を阻止することがも目的だった。

フーシ派の脅威を避けるため、多くの船舶がアフリカ南端を迂回し、航行日数が数週間延びる事態となっていたためだ。ピーク時には米国は約12隻の艦艇を投入し、英国などの同盟国による拠出数を上回った。

2025年5月までに、1000カ所以上のフーシ派拠点への攻撃を実施。その後、トランプ氏はフーシ派との停戦が成立したことを受け、米国は攻撃を終了すると表明した。

しかし戦闘の沈静化は一時的なもので、フーシ派は再び船舶攻撃を開始した。多国籍の共同海事情報センター(JMIC)によると、重大な攻撃は9件に上り、4隻が沈没した。

攻撃が一時的に沈静化したのは、米国による爆撃作戦の成果だったと考えられる。ただ、多くの船舶が依然として紅海航路を回避していたことにも一因があったようだ。

■タンカー戦争:アーネスト・ウィル作戦

1980年代のイラン・イラク戦争中にあったタンカー戦争では、数百隻の商船が攻撃を受け、数百人の民間船員が死亡した。

1987年7月、米国はアーネスト・ウィル作戦を開始。クウェート所有のタンカーをイランの攻撃から護衛した。この作戦は、ピーク時には30隻以上の軍艦が参加し、第二次世界大戦以降で最大規模の船団護衛となった。

もっとも、この作戦によって攻撃が直ちに終息したわけではない。最初の護衛任務では、クウェートの商業タンカーが機雷に接触し、船体に損傷を受けたが負傷者は出なかった。その後も機雷やミサイルによる攻撃で、クウェートの船舶や米海軍の艦艇が損傷を受けた。

■タンカー戦争:プライム・チャンス作戦

これは、アーネスト・ウィル作戦の一環として実施された秘密作戦だった。目的はイランの機雷敷設能力を破壊し、安全な護衛を可能にすることにあった。

米特殊作戦部隊は主に夜間に活動し、イランの機雷敷設船を追跡して攻撃、破壊し、護衛のための安全確保に道を開いた。米国がイラン海軍に攻撃した成果もあり、最終的には船舶への攻撃は大幅に減少した。

原題:What It Would Take to Reopen the Strait of Hormuz: Explainer(抜粋)

--取材協力:Tom Fevrier、Hayley Warren、Denise Lu、Nilushi Karunaratne.

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