イスラエルのネタニヤフ首相は19日、今後はイランのエネルギー施設を標的としない方針を示した。イランのガス田への攻撃は、中東各地の主要エネルギー施設に対する報復を激化させ、原油・ガス価格の急騰を招く事態となっていた。またトランプ米大統領も強い不満を示していた。

ネタニヤフ氏は記者会見で「イスラエルは単独で行動した」と述べた。これに先立ちイスラエル当局者は、攻撃について米国に事前通告していたと説明していた。

またネタニヤフ氏は、イスラエル軍がホルムズ海峡の通航再開を目指す米国の取り組みを支援する考えも示し、戦争は人々が考えているよりも早く終わるとの見方を示した。エネルギー価格がさらに上昇する局面にあったが、市場の不安を和らげる材料となった。

トランプ氏は19日、「私は彼に『そんなことはするな』と言った。彼(ネタニヤフ氏)はもうやらないだろう」と述べた。「われわれの関係は非常に良好だ。調整は取れている。ただ、時には彼が何かをすることがあり、私が気に入らなければ、そういうことはやらせない」と語った。

米国は31.5兆円の戦費追加を要求

攻撃開始から約3週間が経ち、米国にとっては戦争のコストが明白になっている。

19日にはイランが、防空システムによって米軍の戦闘機F35に「重大な損傷」を与えたと発表。米中央軍は1機が緊急着陸し、パイロットは安定した状態にあると明らかにした。

また、事情に詳しい関係者によると、米国防総省は戦費として追加で2000億ドル(約31.5兆円)の予算を議会に要請した。これは、米国が長期戦を見据えている可能性を示唆するものだ。ただ、ヘグセス国防長官は懸念を否定し、戦争は「計画通り」に進んでいると述べた。

ヘグセス氏は記者会見で、「悪者を殺すには資金が必要だ」と発言。終わりのない泥沼化した戦争に向かっているという見方は否定した。

しかし、議会からの予算の承認が得られるかは不透明だ。要請額は、米国が2022年以降にウクライナへの安全保障支援として支出してきた約650億ドルを大きく上回り、政権が対イラン戦争の長期化を見込んでいる可能性を示唆している。民主党はこの計画を批判し、共和党も態度を明確にしていない。

民主党のピーターズ上院議員(ミシガン州)は19日、ブルームバーグテレビジョンで「最終的な目標が何なのか、あるいは勝利とは何を意味するのかについて、何も示されていない」と批判した。

湾岸諸国のエネルギーインフラに被害

それでも終結の見通しが立たない中、原油・ガス価格は再び急騰し、インフレ加速や経済成長の抑制への懸念が広がる中で債券は下落。アジアと欧州の株式も下げを拡大した。一方で米国株は、イスラエルがホルムズ海峡の通航再開を支援するとの発言を受け、終盤にかけて急反発した。

イランのアラグチ外相はX(旧ツイッター)への投稿で、イランのエネルギー施設が再び攻撃された場合は「一切の自制はしない」と警告した。

一連の攻撃の一環として、サウジアラビアは紅海沿岸のサムレフ製油所がドローン攻撃を受けたと発表した。紅海はサウジにとって、ホルムズ海峡を通らない重要な輸出ルートにあたる。また、首都リヤドに向けて発射された弾道ミサイルも迎撃したとしている。

カタールは、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出プラントで「甚大な被害」が出たと報告。国営カタールエナジーは、攻撃による損失が年間約200億ドルに上り、復旧には最大で5年かかる可能性があるとした。

アラブ首長国連邦(UAE)は、ミサイルの破片落下を受け主要ガス施設を停止。クウェート・ペトロリアムによると、クウェートでは2カ所の製油所がドローン攻撃を受け、火災が発生した。イラクでも、イスラエルの攻撃を受けてイランがサウスパースからのガス供給を停止したため、発電能力が減少したと報告された。

サウジ、軍事行動の可能性を示唆

今回の攻撃により、他国が戦争に参戦する可能性も高まっている。

サウジのファイサル外相は、自制には「限界がある」と警告し、軍事行動に踏み切る可能性に言及。「それは1日か2日、あるいは1週間かもしれない」と述べ、サウジとイランとの関係は「完全に崩壊した」と語った。

エネルギー施設への攻撃は米イスラエル関係にも亀裂を生じさせている。トランプ氏は18日夜、「イスラエルによるサウスパースへの攻撃はこれ以上行われない」とSNSに投稿。イランがカタールへの攻撃を続けた場合、米国が「サウスパース天然ガス田全体を、大規模に破壊する」と警告した。

ネタニヤフ氏がエネルギー施設への攻撃を控えると表明したことは、トランプ政権の意向に沿うものだ。ただ、ギャバード国家情報長官は18日、米国とイスラエルがイラン戦争で異なる目標を持っていると認めた。米国は主にイランの軍事力の低下を狙っているのに対し、イスラエルは指導部の排除に重点を置いている。

戦闘開始から20日目を迎え、地域全体で4100人以上が死亡し、その約4分の3がイラン国内での死者だ。中東各地でも数十人の死者が出ており、米国は兵士13人と複数の航空機を失った。

イスラエルは並行してレバノンでも、親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘を強化している。レバノン政府によると、イスラエルの攻撃による死者は968人に上る。

原題:Israel Says It Won’t Strike Iran Energy Sites After Trump Rebuke(抜粋)

--取材協力:Omar Tamo、Michael Cohen、Derek Wallbank、Dana Khraiche、Patrick Sykes、Fiona MacDonald.

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