(ブルームバーグ):まず、次の一連の出来事を整理してみよう。極めて異例の展開だ。米当局者が米紙ワシントン・ポストに対し、ロシアがイランに対しペルシャ湾における米軍資産を攻撃するための目標情報を提供していたとリークした。
これらの攻撃により、これまでに米兵が死傷した。また、世界にわずか6基しかない11億ドル(約1750億円)相当のレーダー1基も損傷。その後のCNNの報道によると、ロシアはウクライナとの戦争で得たドローン(無人機)戦術もイランに提供していた。
イランの攻撃は、1機約4万ドルのドローン「シャヘド」によるものが大半だった。一部は湾岸地域の米同盟国が迎撃しなければならず、使用されたのは1発300万-400万ドルのPAC3パトリオット防空ミサイルだった。
これまでに使用された高性能迎撃ミサイルは、ウクライナが4年間の戦争で受け取った数を上回る。
こうした状況の中、ウクライナは自国が保有する独自の低コストの対ドローン技術を米国に提供すると申し出、実際に供与した。ロシアの支援によりイランが攻撃していた同じ湾岸の標的を防衛するためだ。
そして驚くべき展開が続く。ヒーリー英国防相が12日に指摘したように、ロシアが同盟国イランを支援して米国に対抗すること自体は驚くことではない。両国にとって米国は主要な敵だからだ。
驚くべきは、トランプ米大統領の反応だ。トランプ氏は今回もまた、自国の情報機関よりもロシアのプーチン大統領を信頼した。
トランプ氏はウクライナに謝意を示すことも、ロシアを非難することもなかった。そしてプーチン氏と電話会談を行い、ウクライナ戦争について「良い」会話をしたと述べた。
ウィトコフ米特使によれば、プーチン氏が対イラン支援を否定すると、トランプ氏はその言葉をそのまま受け入れたという。
その後、トランプ氏はロシア産石油に対する制裁を1カ月間の一時解除に踏み切り、ロシア政府に新たな収入源を与えてウクライナ侵攻を継続できるようにした。さらにこの措置を恒久化する可能性も示唆した。
これはあまりに倒錯しており、プーチン氏が何をすればトランプ氏のロシアに対する一貫して楽観的な見方が変わるのかという疑問を抱かせる。私の見立てでは、その答えはない。
驚くほど一貫
トランプ氏はしばしば無秩序で衝動的に見える。例えば最近ではホルムズ海峡の航行が可能なのか、それとも機雷が敷設されているのかについて発言を翻している。
しかし、同氏の中核的な信念は驚くほど一貫しており、その多くは約40年前に形成されたものだ。実際、「トランプ外交」の政策は1980年代の「プレーリスト」のようなものだ。
40年遅れで同じ曲を流し続けている。代表的な楽曲はこうだ。モスクワとの友好に加え、イラン爆撃や北大西洋条約機構(NATO)軽視、貿易関税の復活が続く。
この「バック・トゥ・ザ・フューチャー」現象の影響は誇張ではない。
トランプ氏は現在、膨大な軍事・政治・経済力を手にしている。そのプレーリストは世界を予想外かつ不健全、そして潜在的に大きく変化させる道へと押し進めている。
ロシアを例に取ろう。トランプ氏は少なくとも86年からロシアに好意的だった。当時、ソ連のドゥビニン駐米大使と娘がトランプ氏に接触した。
翌年、彼らはトランプ氏をプライベートジェットでソ連に招き、ソ連の観光機関インツーリストと共同でトランプタワーのホテルを2棟建設・運営する可能性を検討させた。
ノーベル平和賞を受賞した心臓専門医、故バーナード・ラウン氏によれば、トランプ氏は86年にラウン氏に対し、自分なら1時間で冷戦を終わらせられると語ったという。
トランプ氏は87年にモスクワから帰国すると、米大統領選出馬を示唆し、約10万ドルを費やして新聞の全面広告を掲載した。そこで日本やサウジアラビアが米国の防衛費にただ乗りしていると主張。それから間もなくテレビ番組「ラリー・キング・ライブ」でも、NATOについて同様の発言をした。
2024年にトランプ氏が2度目のホワイトハウス入りを決めた時、ソ連はすでに存在していなかった。ロシアがNATOの大幅な解体を含む要求を掲げてウクライナに侵攻していた。
しかし、トランプ氏の見方は1980年代と変わらなかった。同氏は依然としてロシアを、米国が友好関係を築くべき未開拓の金融機会として見なしていた。どんな障害も数時間で解決できると信じ続けていた。NATO加盟国がより多く負担すべきだという考えも変わらず、同盟が米国にもたらす利益にも懐疑的だった。
大きな代償
イランに対する見方も同様に一貫している。80年のテレビインタビューで、イラン革命政権が米国人を人質に取った時点で米国は軍を送り、イランの石油供給を掌握すべきだったと語った。
88年には、イランが次に問題行動を起こした瞬間に主要な石油輸出拠点であるカーグ島を占領すべきだとも述べている。トランプ氏が始めた対イラン戦争で、米軍はカーグ島を攻撃した。
貿易に対するゼロサム的な見方も80年代に形作られた。ラリー・キング・ライブのインタビューで、自由貿易は幻想であり米国は搾取されていると不満を述べている。唯一変わったのは、同氏が世界貿易の悪玉と見なす相手だ。当時は日本だったが、今は中国だ。
一貫性には価値があり、ある意味で誠実さでもある。しかし見解を持つことと、それを実現する戦略と適応的な政策体系を構築することは別問題だ。状況は変化する。
信念が分析や検証の対象とならず、専門家ではなく追従者に囲まれた大統領は現状をかき乱すことはできるかもしれない。しかし望ましい結果を出すには、目隠しをしたダーツの名手並みの幸運が必要だ。
現在の出来事は、この進化の欠如が政策形成をどうゆがめるかを鮮明に示している。数カ月前、ウクライナのゼレンスキー大統領は、湾岸地域で米国に対ドローン技術を提供する提案をパワーポイントでトランプ氏に示した。
しかし検討を指示されたホワイトハウス当局者は、これをパフォーマンスだとして退けた。明らかな必要性と、ウクライナの実証済みの能力があったにもかかわらずだ。
米国が湾岸の防空を強化して戦争に備えていた時でさえ、シャヘドの大群が実際に押し寄せるまでウクライナ政府に連絡しようと考える者はいなかった。
この誤りには大きな代償が伴った。ロシアと戦うウクライナの側に立つようトランプ氏を説得しようとしていたゼレンスキー氏に対する偏見と、イラン政権が自らの存亡を懸けた攻撃にどう反応するかを理解できなかったことが原因だ。
イランの新たな最高指導者モジタバ・ハメネイ師の名前で12日に出された声明を見る限り、イランは長期戦の構えを強めている。
トランプ氏の揺るがない信念が政策形成に与えた影響の別の例は、イランとの戦争決定を説明するために同氏と政権が次々と示した支離滅裂な理由と曖昧な目的だ。
最も信じられる説明は、もっと単純だろう。トランプ氏が79年以降、イランによる攻撃や侮辱への報復として望んできたことであり、その機会を逃さなかったというだけのことだ。
トランプ氏は中東についても長年の一貫したビジョンを持っている。それは同氏が政権1期目でまとめたアブラハム合意に体現されている。
宗教的狂信の代わりに市場の論理を導入し、イスラエルを地域に統合し、エネルギー資源に富むイラン経済を米国主導の世界経済に再び組み込むという構想だ。
ただし、トランプ氏が現在取っている行動がそれを実現する方法なのかは明確ではない。同氏が正しいのか、それともイランとの戦争を巡る費用対効果を検討した結果、開戦を見送ってきた過去7人の米大統領が正しかったのか。世界は今まさにその答えを目の当たりにしている。
(マーク・チャンピオン氏は、欧州・ロシア・中東を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:We’re All Trapped in Trump’s 1980s Worldview: Marc Champion (1)(抜粋)
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