イスラエルのネタニヤフ首相は、対イラン戦争をまだ終わらせるつもりはないと明確にしている。一方、トランプ米大統領が紛争の長期化をどこまで容認するかははっきりしていない。

10日間に及ぶ戦争が原油市場を揺るがし、11月の中間選挙に向けた共和党の勝算を脅かしている。トランプ氏は9日、緊張緩和に向けて動く構えをこれまでで最も強く示唆した。軍事目的は「ほぼ完了している」と述べ、紛争は「ごく短期」に終結するとの見方を示した。

これに対しネタニヤフ氏は同日、目標は「イラン国民から専制のくびきを解き放つ」ことだと述べ、体制転換が実現するまで圧力をかけ続ける考えを強くにじませた。

両国の目標に隔たりが広がれば、中東政策の基盤となってきた2国間関係に緊張が生じかねない。戦争終結の道筋についてより明確な説明を求め始めた他国の間には、新たな疑念も浮上している。米国もイスラエルも公の場では結束を保ち、軍も連携しているが、両国の当局者は長期戦となれば一段と大きな亀裂を生む恐れがあることも認めている。

ネタニヤフ氏とトランプ氏

ブッシュ(子)政権で国家安全保障会議(NSC)の中東担当シニアディレクターを務めたマイケル・シン氏は、「米国とイスラエルの目標は重なっているが同一ではない」と指摘し、その違いは単に地理的条件が背景だと語った。

「戦争が終われば、米国は撤収して他の優先課題に目を向けることができる」が、「イスラエルは中東の一部であり、いかなる結果になろうともイランと共存し、この紛争の余波に対処しなければならない」という。

こうした懸念は、イスラエルがイラン国内の燃料貯蔵施設やその他インフラを攻撃し、テヘランの軍事力低下を超えて国家全体への圧力を強めて以降、強まっている。攻撃によりテヘランの一角は一晩中、黒煙に包まれた。

対イラン攻撃を支持してきたリンゼー・グラム米上院議員でさえ、イスラエルに対し「標的の選定には慎重であってほしい」と呼びかけ、イラン国民が将来を損なうことなく体制を交代させられるよう支援することが目的でなければならないと話した。

米国は目標を軍事的なものと位置付け、イランの核兵器取得能力を封じ込め、海軍を壊滅させ、ドローン(無人機)や弾道ミサイル計画を排除することにあるとしている。これに対しイスラエルは、体制指導部や国家の経済基盤の一部への打撃を強調している。

終着点

トランプ氏とネタニヤフ氏はそれぞれ異なる現実に直面している。米国内の世論の支持はイスラエルより弱い。

ロイター/イプソスの世論調査では、作戦を支持する米国人は27%にとどまった。一方、イスラエル民主主義研究所の調査ではユダヤ系イスラエル人の82%が攻撃を支持しており、ネタニヤフ氏には年内に総選挙を控え作戦を継続する余地が大きい。

米当局は、トランプ氏ではなくネタニヤフ氏が政策を主導しているとの印象が広がることに神経をとがらせている。ルビオ国務長官は先週、イスラエルへの脅威がトランプ氏の攻撃決定の理由だと示唆した後、この発言を撤回した。

ヘグセス国防長官は10日、イスラエルが米国の支援を利用しているのではないかと懸念する国民へのメッセージを問われ、明確な答えに苦慮。「目標が異なる場合には、それぞれが追求してきた」と述べた上で、「大統領はわれわれがどこかに引きずり込まれているのではなく主導していることを明確にしている」と記者会見でアピールした。

少なくとも12の船舶群(中には200隻を超えるものもある)がホルムズ海峡周辺で確認された。電波妨害が強まっている兆候だ

欧州の当局者は、米国とイスラエルが同じ終着点を共有しているかは不明だとし、戦争が混乱した形で終結するリスクがあるとみている。イスラエル当局者も非公式には、戦闘が長引くほど相違が拡大する可能性を認めている。

ドイツのメルツ首相は10日、「何よりも、この戦争を迅速かつ説得力のある形で終結させるための共同計画が欠けているように見えることを危惧している」とベルリンで記者団に語った。

現時点では、米国とイスラエルはイランがイスラエルや近隣諸国を脅かす能力を弱体化させる点で足並みをそろえている。イスラエル指導部は戦争を通じてイランにより深刻な打撃を与える構えを示している一方、ワシントンは明確な政治的終結戦略をほとんど示していない。

ただ、戦争が長期化すれば相違はより鮮明になり得る。イスラエルの政策に詳しい関係者によると、ネタニヤフ氏はトランプ氏よりも長期戦を志向する可能性が高い。紛争による原油高が国内での経済的・政治的圧力を強める中、トランプ氏は難しい立場に置かれている。

米国の有権者

今回の紛争は、米国が長年保護に努めてきた湾岸のエネルギー体制にも打撃を与えている。世界の原油の約2割が通過するホルムズ海峡では、保険会社や船主が慎重姿勢を強めたことで通航量が急減した。原油価格は1バレル=100ドルを突破し、欧州のガス価格も上昇している。

その影響はすでに米国の有権者に及んでいる。ガソリンの全米平均価格は1ガロン=約3.46ドルと、先週から約40セント上昇した。中間選挙を控え、紛争が新たなインフレ問題に発展するリスクがある。

元米国務次官補(近東担当)のバーバラ・リーフ氏は「ネタニヤフ氏は可能な限り多くを、できるだけ早く得ようとするだろう」と分析。「イランでのコストはネタニヤフ氏よりもトランプ氏にとってはるかに速いペースで増大している」と述べた。

米政府は混乱の抑制に速やかに動いている。トランプ政権は湾岸でのタンカー航行を回復させるため、200億ドル(約3兆1600億円)規模の海上再保険プログラムを発表し、商船への海軍護衛も検討。当局者は混乱が一時的なものにとどまると市場を安心させようとしている。

イスラエルのベネット元首相はブルームバーグテレビジョンで、米国とイスラエルは戦争の目標で一致していると説明し、イランが核・弾道ミサイル保有国でなくなるまで「必要な限り」戦う用意があると語った。

また、イスラエルのヘルツォグ大統領は先週、イスラエルは「トランプ大統領に何も指図していない」とCBSニュースに説明。米国や他の同盟国に地上部隊の派遣を求めていないとも語った。

元米中央情報局(CIA)の中東担当シニアアナリスト、ウィリアム・アッシャー氏はネタニヤフ氏について、「トランプ氏が目標を共有しているとの前提で行動しているようだ」と述べ、「核計画の完全な排除については共有していると思うが、それ以上についてはそうではないかもしれない」との見方を示した。

原題:US and Israeli Endgames for Iran Are Diverging as War Drags On(抜粋)

--取材協力:Ellen Milligan、Ethan Bronner、Alberto Nardelli、Nancy Cook、Fiona MacDonald、Samy Adghirni.

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