テクノロジー起業家マット・シューマー氏によるX(旧ツイッター)への投稿が先週、ネット上で大きな話題となった。「何か大きなことが起きている」との見出しで、人工知能(AI)が短期間のうちに専門職を奪ってしまうさまざまな可能性を列挙した内容だった。

投資家でもあるシューマー氏によると、アンソロピックの「クロードコード(Claude Code)」や「クロードコワーク(Claude Cowork)」のようなAI支援ツールがあれば、弁護士やファンドマネジャーを雇う必要はなくなる。

このような世界に備えるには、われわれ全員がAIを1日に1時間は使う練習をしてスキルを高め、激しい変化を先取りし続ける必要があると同氏は説いた。この投稿はインターネット上で急速に広まり、Xで8000万回以上閲覧された。ネットに常時接続している若い世代の言葉を借りれば、人々は動揺している。

AIにまさに取って代わられようとしていると見なされたソフトウエアや金融関連の銘柄が株式市場で激しく売られているさなかでもあったため、投稿には余計に人々の関心が集まった。

AIを巡る劇的な話に注意が向かいやすくなっているのは、市場の混乱が理由の一つだろう。もう一つは、クロードコードで数時間のうちにウェブサイトを立ち上げたり、クロードコワークでリンクトインのメッセージに返信させたり、最新のツールを試している人が多いためだ。

AIツールの優れた能力に多くが驚きと恐れを感じ、それが自分たちの生活に「一体どのような意味を持つのだろう」との疑問を抱いている。しかし、シューマー氏の投稿に対する人々の強い反応は、市場の混乱を説明する手がかりにもなる。AIは今や、雰囲気とナラティブ(物語)を基に取引されているのだ。

4783語から成るシューマー氏の投稿の中に、AIツールが数百万人のホワイトカラーを近く失職に追い込むとの見方を裏付ける定量的なデータや具体的証拠は一つもない。同氏はノートパソコンを置いて席を外し、戻ってきたらコードが完成していたという話や、友人の法律事務所が若手弁護士を解雇してAIツールに仕事を任せた話などに言及しているが、それは証拠というより、事例の紹介だ。

筆者は過去にテクノロジーについて大げさな主張をしていたと一部から批判を浴びているが、それは的外れな指摘だ。AIに関する一つの説得力ある話が、市場があまりにナラティブ主導で動き投資家に大打撃を与えている中で、不安を拡大した。

ある瞬間には、われわれはAIを過剰に持ち上げ、別の瞬間には、AIが人間の知能を近く超えると不安がる。昨年11月半ばに米ダウ工業株30種平均が1日で500ポイント近く下落したことを覚えているだろうか。その翌月にオラクルやコアウィーブの株価が急落したことはどうだろう。いずれも、AIバブルが崩壊寸前にあるとの懸念から市場が混乱した。

アンソロピックがクロードコワーク向けに法務タスクをこなす機能など11のプラグインを発表した後、今月に入り株式市場は再び動揺した。今度は、長らく保有してきた銘柄がAIによって脅かされるのではないかと投資家が懸念したのだ。

退屈な真実

このように投資家が信じ込む話には振れがあるが、基礎的なデータに多くの変化は見られない。米国の生産性はわずかに上昇しているが、おおむね歴史的なレンジ内にある。エール大学予算研究所は、OpenAIの「ChatGPT」登場以降、労働市場全般で目に見える混乱はないと結論付けた。

また、非営利のAI研究機関METRが昨年実施したランダム化比較試験では、経験豊富なソフトウエア開発者がAIツールを使用した場合、タスク完了に要した時間は19%長かったという結果が示されたという。シューマー氏もこの試験に言及しているが、自分に都合の良い部分だけ抜き出している。

変革のスピードについて健全な疑いを持ち、注目を集めそうな主張を広めているのは最も利益を得る可能性が高い人々であることに留意する価値はある。

アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は、今後1-5年でエントリーレベルのホワイトカラー職の半分はAIにより消滅すると予測し、人々の関心を引いた。マイクロソフトのAI部門責任者ムスタファ・スレイマン氏は先週、「ほとんど全て」の専門職の業務は1年半以内に自動化されると述べ、さらに踏み込んだ。

こうした言い回しにばかり耳を傾ける人々には、疑わしい判断が相次ぐ。ハーバード・ビジネス・レビューが1000人以上の経営幹部を対象に調査したところ、将来のAI能力を見越して多くが人員削減を既に実施していたことが判明した。実際のAI導入が理由で解雇したとの回答はわずか2%だった。

スウェーデンのフィンテック企業クラーナは、700人のカスタマーサービス職をAIに置き換えた結果、サービスの質が低下したため、人員の再雇用に踏み切った。

こうしたパターンは以前にも見られた。2000年代初頭には現実離れしたナラティブが先行し、ドットコムバブルの崩壊に至った。インターネットは人々が主張した通り革新をもたらしたが、その進行には予想以上に長い時間がかかった。

いま必要なのは、単純に色分けできるようなものではないAIの影響を、時間をかけて慎重に評価する姿勢と、AI研究所でさえ今後どうなるかは見通せないという事実に謙虚に向き合うことだろう。

OpenAIの経営陣はChatGPTが市場にブームを引き起こすとは予想していなかった。アンソロピックも最新ツールに対する反響に衝撃を受けたと、同社のスタッフが筆者に語った。

AIによる影響は過大に評価されてもいれば、現実のものでもあり得る。この2つは、同時に成り立つ可能性がある。しかし、そのバランスを取るには、言葉よりも証拠を重視し、生産性統計や雇用動向、METRが行ったような緻密な研究を追うことが必要だ。

AIが有用な技術であることは確かだ。だが、その影響は不均一かつ漸進的で、予測できない。人々の関心を大きく集めることはないだろうが、それが退屈な真実だ。

(パーミー・オルソン氏はブルームバーグ・オピニオンのテクノロジー担当コラムニストです。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)やフォーブスで記者経験があり、著書には「Supremacy: AI, ChatGPT and the Race That Will Change the World」など。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The AI Narrative Has Flipped. The Evidence Hasn’t: Parmy Olson(抜粋)

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