トランプ米大統領が共和党に対し選挙ルールを「国有化」するよう求めたことで、米国の選挙に連邦政府がどこまで関与できるのかを巡る長年の憲法論争が再燃している。

合衆国憲法の下では、選挙の実施において中心的な役割を担うのは州だ。州は選挙区の区割りを行い、有権者登録のルールを定め、投票所を管理する。連邦議会には一定の介入権限があるものの、大統領が単独で行使できる直接的な権限はほとんどない。

トランプ氏の発言は、政権側が州の有権者データへのアクセス拡大を模索する中で出たもので、11月の中間選挙で不利な結果が出た場合に疑義を唱える口実や、選挙結果に介入する手段を探っているのではないかとの懸念を招いている。

選挙に関係する権限はどのように分担されているのか、そしてトランプ氏が選挙の国有化を図った場合、どのような制約に直面するのかを整理する。

なぜ州が選挙を管理するのか

憲法第1条第4節は、いわゆる選挙条項として知られ、「上院議員および下院議員の選挙を実施する時期と場所、方法は、各州の立法府がこれを定める」と規定している。

建国当初、この枠組みは理念と実務の双方を反映したものだった。州はすでに選挙を運営しており、代表者の選出に関して、特に中央集権的な権力への強い不信感があった。

選挙は州主権の中核的属性と見なされ、州に委ねることが中央政府のコントロールを防ぐ安全策と考えられた。

投票用紙を扱う有権者登録局職員(カリフォルニア州オレンジ郡)

また、18世紀後半の実務的事情もあった。当時、有権者登録や投票の実施、開票を行う行政能力を持っていたのは州・地方当局だけだった。

大半の国民にとって、日常生活に関する行政で連邦政府は実質的な存在感がなかった。そのため、連邦の選挙であっても従来通り州が管理を続けると定められた。

この仕組みは現在でも実務上、合理的だ。連邦と州、地方の選挙候補者が同一の投票用紙に記載されることが多く、州と連邦の選挙を分離して実施すれば、重複する機関やインフラが必要となり、コスト増や有権者の混乱を招く可能性が高い。

連邦政府の役割は

州に主たる権限を与える同じ条項には、重要な注記も付されている。すなわち、連邦議会は「いつでも法律によりこれらの規定を制定または変更することができる。ただし、上院議員を選出する場所を除く」というものだ。

こうした役割分担が、その後の選挙法制を形成してきた。州が選挙を運営する一方、議会は国益が関わると判断すれば介入できるという構図だ。大統領には、単独で行使できる議会と同じような権限はない。

議会はどのように関与してきたか

米国の歴史の大半において、議会は選挙条項に基づく権限を慎重に行使してきた。1845年の大統領選挙日法は、11月第1月曜日の翌日の火曜日を全米共通の選挙日と定め、数週間にわたり各州が投票していたそれまでの制度を改めた。

しかし、投票日の統一を超えて選挙の直接的な監督に踏み込む試みは、すぐに反発に直面した。1890年のロッジ法は投票所に連邦監督官を配置する内容だったが、下院は通過したものの上院で廃案となった。

20世紀に入り、連邦政府はより積極的に関与するようになった。とりわけ重要な介入は、公民権の侵害や選挙管理上の不備への対応として行われた。

1965年の投票権法は投票における人種差別を禁止し、過去に有権者の権利を剥奪した州に対し、選挙法の変更について連邦の事前承認を長年にわたり義務付けた。この事前承認制度は2013年の連邦最高裁判決で終了した。

1993年の全米有権者登録法(モーター・ボーター法)は、各州に対し自動車局などの公共機関で有権者登録を受け付けることを義務化した。これにより登録の機会が広がるとともに、基本的な連邦選挙登録手続きの標準化が進んだ。

2000年の大統領選を巡る混乱を受け、連邦議会は2002年に米投票支援法(HAVA)を可決した。同法は投票システムに関する最低基準を定め、暫定投票制度を創設するとともに、各州が機器の近代化を進めるための連邦資金を提供した。

トランプ氏は何を提案しているのか

トランプ氏は今月2日、連邦捜査局(FBI)副長官だったダン・ボンジーノ氏のポッドキャストで、トランプ氏が敗れた2020年大統領選に対する不満を改めて述べ、共和党に対し選挙を「乗っ取る(take over)」よう求めた。

「共和党はこう言うべきだ。『われわれは乗っ取りたい。少なくとも15の場所(州)で投票を乗っ取るべきだ』」と同氏は語り、「共和党は投票を国有化すべきだ。非常に腐敗した州があり、そうした州が票を数えている」と主張した。

ホワイトハウスはその後、トランプ氏の発言を事実上修正し、同氏が言及したのはセーフガード・アメリカン・ボーター・エリジビリティー(SAVE)法案に限られると説明した。この法案は連邦選挙での有権者登録時に米国民であることの書類証明を求める内容だ。

トランプ氏は本当に国有化できるのか

議会の協力なしにはできず、また国有化の意味によっても条件は異なる。全面的な連邦政府への移管には憲法改正が必要となる。

トランプ氏が示唆したような15ほどの管轄区(州)のみを対象とする部分的な移管は、すべての州の平等な主権や有権者の平等保護を認めた最高裁判例に抵触する可能性がある。

トランプ氏の発言に対する懸念は

民主党上院トップのシューマー院内総務はトランプ氏の国有化発言を「より危険で専制的な害毒」だと批判した。共和党のスーン上院院内総務も、「憲法上の問題」だとして選挙の連邦化に反対すると述べた。

2020年の大統領選で不正があったと虚偽の主張を続けるトランプ氏の発言は、突発的なものではない。同氏が投票ルールへの影響力拡大を図ってきた一連の行動の延長線上にあると、トランプ氏に批判的な向きはみている。

同氏は政権2期目に入り、連邦選挙委員会(FEC)の独立性を制限しようとし、投票機器の認証や州への補助金交付を担う選挙支援委員会(EAC)にも圧力をかけてきた。

郵便投票への制限を提案し、共和党が多数派を握る州議会に対し同党に有利となるよう連邦議会選挙区の区割り見直しを求めたほか、2020年選挙結果の転覆を図ったとして起訴された元側近らを恩赦した。

また、州の有権者データへのアクセスも求めている。先月28日にはFBIが2020年選挙で使用された投票用紙を押収するため、ジョージア州の選挙センターで捜索令状を執行した。

原題:Why It’s Hard for Trump to ‘Nationalize’ Voting Rules: QuickTake(抜粋)

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