米富豪ジェフリー・エプスタイン氏は2013年前半、カリーナ・シュリアク氏と交際していたが、彼女は米国ビザ(査証)の在留資格を巡って不安を抱えていた。その年、シュリアク氏は米国人と結婚し、懸念は解消した。

シュリアク氏はその後、グリーンカード(永住権)を取得し、18年には米国籍を得た。そして、離婚した。同氏が離婚した相手は「ジェニファー」という名の女性で、エプスタイン氏の紹介でキンバル・マスク氏と交際関係にあった人物だった。

キンバル氏は世界一の富豪イーロン・マスク氏の実弟。エプスタイン氏は性犯罪で起訴され勾留中の19年に死亡し、当局は自殺と結論付けている。

シュリアク氏が米国籍取得に至る経緯や他の女性数人の事例は、米司法省が最近公表した「エプスタイン事件」に関係する大量の資料で明らかになった。エプスタイン氏が学生ビザや英語学校、偽装結婚を利用して、自身の周りにいた女性たちを思い通りの場所にとどめていた実態を浮き彫りにしている。

学生ビザ

エプスタイン氏は11年に始まる複雑な手続きを通じ、学位を修了していなかったベラルーシ出身のシュリアク氏を、編入生としてコロンビア大学歯学部に入学させる手配をしていた。

入学後、彼女とコロンビア大の留学生オフィス職員とのやり取りからは、移民手続きがなお障害となっていたことがうかがえる。

コロンビア大歯学部の職員は12年7月、シュリアク氏に対しメールで「本日、入国管理局でたらい回しにされていたのであれば、大変申し訳ない」「現時点では、あなたの在留資格に問題はないと考えている」と伝えた。コロンビア大とこの職員はコメント要請に応じなかった。

エプスタイン氏はシュリアク氏の在留資格を確実なものにしたいと考えていたようで、彼女の学生ビザ資格回復に関し、人脈を通じ支援を求めた。

エプスタイン氏は12年後半、公開された資料に複数回登場する英国人投資家イアン・オズボーン氏に「あなたには、ワシントンに移民分野に強い弁護士の友人がいると記憶している」とメールした。

オズボーン氏は、移民帰化局(INS)の上層部とつながりのある人物につてがあると応じた。その人物とは、当時、法律事務所スキャデン・アープス・スレート・ミーガー・アンド・フロムのパートナーだったグレッグ・クレイグ氏だと説明した。クレイグ氏はオバマ政権でホワイトハウス法律顧問を務めた経歴を持つ。

オズボーン氏は「INS」と記し、クレイグ氏が「優秀な移民専門の法律事務所を使っている」とし、その後、アリ・マヨルカス氏に事前連絡を入れると伝えた。当時のINSトップで、後にバイデン政権で国土安全保障長官を務めたマヨルカス氏の名が挙げられた。「きょう中に調整のため電話する」とも書いていた。オズボーン氏は米市民権・移民局(USCIS)の旧称であるINSという名前を用いていたようだ。

このメールを受け、スキャデンの弁護士らはエプスタイン氏およびオズボーン氏と電話会議を行い、協力を仰いだ移民専門の法律事務所から支援を取り付けた。あるメッセージによると、クレイグ氏も会議に参加予定だったが、実際に参加したかどうかは不明だ。

その後のメッセージでは、マヨルカス氏の名前は再び登場せず、同氏がこの問題を認識していたことを示す証拠もない。マヨルカス氏はコメント要請にすぐに返答しなかった。

オズボーン氏は「エプスタイン氏と出会ったこと、関与したことを心から後悔している」とするコメントを発表し、エプスタイン氏の違法行為を知らなかったと主張した。現在は別の法律事務所に所属するクレイグ氏は取材要請に応じなかった。

やり取りの末、エプスタイン氏が受け取ったアドバイスは、厄介なものだった。シュリアク氏の学生ビザは滞在期限が過ぎており、資格回復は困難だという。いったん出国して新たに申請しても、認められない恐れがあると弁護士の1人は伝えた。

また、彼女は亡命を申請していて、弁護士はこれについて「米国に一時的に滞在し、学業終了後に帰国するという意思表示と直接的に矛盾する」と指摘した。

スキャデンはコメントを控えた。事情に詳しい人物によれば、スキャデンはエプスタイン氏の正式な代理人となったことはなく、スキャデンの弁護士がエプスタイン氏を別の法律事務所に紹介し、報酬は受け取っていないという。

結婚と離婚

エプスタイン氏がスキャデンとの連絡をいつ絶ったかは不明だが、メッセージは途絶えた。同氏は13年8月までに別の移民弁護士アルダ・ベスカルデス氏と直接メールをやり取りしていた。

ベスカルデス氏は同月、エプスタイン氏ともう一つのアドレス宛てのメールで、「結婚についてもできるだけ早く話し合うべきだ。あなたはNYC(ニューヨーク市)にいるか」と尋ねた。1カ月後、シュリアク氏は連絡を取り、「明日、私たちに会えるか。つまり私とジェン(ジェニファー)の2人だ」と書き送った。もう一つのアドレスは司法省によって黒塗りされていた。

シュリアク氏は13年10月9日、ニューヨークで結婚した。結婚登録証明書に記載された相手の名前は黒塗りされているが、2人はいずれもニューヨーク市イースト66丁目301番地に居住していると記されていた。この住所は、エプスタイン氏と関係のある多くの女性や著名な来訪者が滞在していた場所として資料に繰り返し登場する。

シュリアク氏は翌日、ベスカルデス氏に連絡し、面談の予約を求めた。1週間余り後、ベスカルデス氏は「では、進めるのか」と問いかけた。

シュリアク氏は「イエス」と答え、「遅れて申し訳ない。ジェンからの追加情報を待っている」と返した。同年後半の記録によると、シュリアク氏とジェニファー氏は共同の銀行口座を保有していた。ブルームバーグ・ニュースはプライバシー保護のためジェニファー氏の姓を伏せている。

14年半ば、シュリアク氏は「ファミリーベース」のグリーンカードを申請し、12月までに面接が設定された。15年1月、シュリアク氏はベスカルデス氏に「グリーンカードを受け取った。本当にありがとう。多大な支援に心から感謝している!!!」とメールした。

3年後、シュリアク氏は米国民になる帰化手続きをしていた。18年5月までに米国籍を取得した。しかし、同年10月にはすでに離婚手続きを進めており、それから1年足らずで離婚が成立した。

ベスカルデス氏とシュリアク氏、ジェニファー氏はいずれもコメント要請に応じなかった。

英語学校

その10年近く前、シュリアク氏は移民手続きの重要な一歩を踏み出していた。成績証明書によれば、現在はマンハッタン中心部にある英語学校スパニッシュ・アメリカン・インスティテュートで10年11月に受講を始めた。

こうした語学コースは、外国人女性に合法的な米国滞在資格を確保するためにエプスタイン氏が当初取った一般的な手段だったようだ。多くの場合、入学することで学生ビザ取得に必要な書類が入手できた。

ただし、銀行口座や資金スポンサーを通じて十分な資金(現在では最大2万ドル=約300万円)があることを証明できるのが条件だった。

メールやスカイプのメッセージ、銀行取引明細によると、エプスタイン氏は複数の女性のスポンサーとなり、費用を支払っていた。

エプスタイン氏は17年、黒塗りされたアドレス宛てに「これはパリ在住のアンナが入学を希望している英語学校だ」「I-20を発行してもらい、ビザを取得する。彼女はロシア人だが、現在はパリに滞在している」と書き込み、19年に閉校したアメリカン・ランゲージ・コミュニケーション・センターに言及した。

I-20とは、米国の認定教育機関が留学生に発行する入学許可書・在学証明書だ。英語コース受講は多くの場合、米国の大学進学を目指す外国人学生の標準要件である「TOEFL」試験の準備にも役立った。エプスタイン氏は、女性たちが滞在先のどこでも試験対策ができるよう手配していたようだ。

エプスタイン氏のために働いていた従業員の1人は15年のメールで、「ジェフリーは島で再びTOEFLの教材を必要としている」「以下の書籍をそれぞれ2冊ずつ(または同様のもの)、バーンズ・アンド・ノーブルで購入し、フェデックスで島に翌日配達で送ってもらえますか」と書いた。バーンズ・アンド・ノーブルは米最大級の書店チェーンだ。

その後、エプスタイン氏はパリの自宅用にTOEFL対策本10冊を求めていたことがメールから分かる。

エプスタイン氏周辺の人物は、外国人女性を米国内にとどめるための支援も行っていた。

同氏の法律顧問を長年務めていたダレン・インダイク氏は、ある女性のために就労ビザを申請した。この女性の氏名は、司法省資料では黒塗りされている。申請のレターはこの女性について、エプスタイン氏の財団でのボランティア活動に加え、モデルとしての経歴にも触れていた。

別の事例では、移民当局が追加情報を求めた後、ベスカルデス氏がインテリアデザイナーとされる人物に就労ビザを認めるべき理由を詳細に説明している。

O-1ビザは、並外れた能力や業績を持つ外国人労働者向けのカテゴリーで、エプスタイン氏を取り巻く関係者が複数の女性の申請に用いた一般的な枠だった。

ベスカルデス氏を含む何人かの弁護士が、ファッションモデルや広報・コミュニケーション、アートキュレーション分野での卓越した能力を理由に請願を提出した。何件が認められたかは不明だ。

元経理担当者の宣誓供述によれば、エプスタイン氏はモデル事務所MC2モデル・マネジメントに対し、信用枠100万ドルを保証したことがある。

MC2モデル創業者のジャンリュック・ブルネル氏は、12歳の少女を含む未成年者を性的目的で米国に連れてきて、エプスタイン氏ら友人にあてがったと民事訴訟で訴えられた。ブルネル氏は強姦罪で起訴され、22年に自殺した。

原題:Epstein’s Girlfriend Married a Woman, Showing How He Gamed Visas(抜粋)

--取材協力:Amanda Albright、Dana Hull.

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