中国の習近平国家主席が、人民解放軍の制服組トップで、かつての盟友でもあった張又侠氏の調査に踏み切った。これは、過去約半世紀で最大規模とされる中国軍に対する粛清においても、特に衝撃的な展開だ。台湾や後継を巡る問題、共産党人事のさらなる混乱にも波及する可能性がある。

張氏は、かつて習氏やその兄弟らと非常に近い関係にあった人物で、中国共産党の戦時の功労者とされる。その張氏の異例の失脚により、中国人民解放軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会は事実上、崩壊に近い状況に陥った。習氏の下で同委の現役メンバーは1人のみとなり、2022年に3期目の習政権が始まった時点で在籍していた6人の同委メンバーはほぼ一掃された。

中央軍事委員会副主席を務める張氏に対する調査は、発表までの速さでも注目を集めた。調査が公表されたのは共産党会合を突然欠席してからわずか4日後。これに対し、昨年解任された元中国軍ナンバー2、何衛東氏のケースでは失踪から調査の公表までに約6カ月を要した。

市場も反応した。ゴールドマン・サックス・グループが算出する中国防衛株価指数は26日朝、一時4.6%下落し、上昇基調で推移した代表的な指数のCSI300を大きく下回った。

調査の詳細な理由は明らかになっていない。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、核兵器プログラムに関する機密情報を米国に漏らした疑いと、国防相ポストなど重要な昇進をめぐる収賄の疑いが指摘されていると報じた。中国国防省はコメントを控えている。

アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターのニール・トーマス研究員は、張氏による情報漏えいの疑いには懐疑的な見方を示した。「戦歴豊富な将軍」である張氏が中国最大のライバル国に機密を渡すという行為は、これまで築いてきた数十年のキャリアにあらゆる面で矛盾しており、実際に行ったとは考えにくいと同氏は指摘している。軍高官が中国を離れることはまれで、通信は厳重に監視されている。2017年に中央軍事委副主席に就任して以降、張氏が現職の米政府高官と会談したのは、2024年に当時のサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と1度だけだった。

中国軍エリート層の混乱は、トランプ米大統領が関税やルールに基づく国際秩序をめぐり、同盟国と対立する中で生じている。こうした状況を背景に、習氏がこの局面を利用して台湾に動きを見せるのではないかとの議論が広がっている。中国共産党は、台湾を自国の領土とみなしている。

張氏への調査は、2027年に予定される5年に1度の指導部人事を前に、不透明感をさらに強めている。習氏が4期目を目指すと広く見られる中、政治局員でもあり中国で最も権力ある軍幹部の1人だった張氏は、後継構想に影響を及ぼし得る数少ない存在とされてきた。

東アジアを担当していた元米中央情報局(CIA)当局者で、現在はジョージタウン大学のシニアフェローを務めるデニス・ワイルダー氏は「軍は中国において、党指導者に反抗した歴史を持つ唯一の組織だ」と語り、「習氏が4期目を目指すのであれば、張氏が党内を主導して自身を失脚させるリスクを恐れざるを得なかっただろう」とも述べた。

中国政治の動向は、共産党の厳格な検閲体制の下で表沙汰になることはほぼない。それでも、今回の不忠を巡る疑惑は、習氏が誰を信頼できるのか、また同氏の側近らがどの程度不満を抱いているのかという疑問を投げかける。

今回の粛清は、習氏が党と軍に対して十分な支配力を有し、いかなる反発にも耐えられると自信を持っていることを示唆する一方で、人民解放軍を「混乱状態」に陥らせていると、アジア・ソサエティー政策の中国分析センターでシニアフェローを務めるライル・モリス氏は指摘する。

人民解放軍には、欠員を補い日常業務を維持するだけの人材の厚みはあるものの、最上級幹部がほぼ一掃されたことで、高度に中央集権化された指揮系統が損なわれる恐れがある。人民解放軍が空席を埋める駆け引きに気を取られる中、習氏は武力行使に一層慎重になる可能性が高いと、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のチーフ・ジオエコノミクス・アナリスト、ジェニファー・ウェルチ氏は述べた。

ウェルチ氏は「幹部の排除は意思決定を混乱させるとともに、取り組みをさらに弱体化させ、指揮統制を支える忠誠ネットワークを不安定化させる」とみている。

背景にある動機が何であれ、張氏の失脚は、少なくとも誰一人として安全ではないことを示している。

米ブルッキングス研究所の研究員で、CIAで中国分析官を務めた経歴を持つジョナサン・チン氏は「今や、習氏と親しい関係にあっても、指導部内で安全な立場にある人物はいないことが明らかになった」と語り、「これは習政権下の中国政治における地殻変動だ」と述べた。

原題:Xi’s Purge of Top General Spurs Questions on Taiwan, Succession

(抜粋)

--取材協力:Shadab Nazmi.

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