肥満症治療薬「GLP-1受容体作動薬」が、医療の姿を大きく変えつつある。長年減量に苦労してきた人々の中には、この薬の投与により劇的な体重減少を実現する例もあるほか、肥満症以外の病気にも効果が期待されている。

これらの注射薬は、米イーライリリーとデンマークのノボノルディスクが開発。両社に巨額の利益をもたらしてきた。両社の競争も激しさを増している。

リリーの「ゼップバウンド」がノボの「ウゴービ」よりも効果的だったとする直接比較試験の結果が出たことで、2025年はリリーが優位に立った。一方、ノボは世界初の経口型GLP-1肥満症治療薬となるウゴービ錠が米国で承認された。巻き返しの態勢が整ったと言える。

ゼップバウンドもウゴービも急速に人気を集めているが、高額な価格と保険適用範囲の狭さから、多くの米国人にとっては手が届きにくい。だが、今後登場する錠剤型は価格が安くなる見通しで、利用拡大につながる可能性がある。

肥満症治療薬の最新動向と、薬剤治療へのアクセスがどう変化しているかについて、知っておくべき点は以下の通りだ。

薬はどう作用するのか

ゼップバウンドとウゴービはいずれも、食後に分泌され満腹感を促す腸内ホルモン「GLP-1」を模倣することで食欲を抑える。

ゼップバウンドはさらに関連ホルモン「GIP」にも作用し、血糖値を下げ代謝を促進する効果がある。リリーの「レタトルチド」やノボの「カグリセマ」など、GLP-1と複数のホルモンを同時に標的とする次世代薬も開発中だ。

肥満症治療薬の一般的な副作用は

主な副作用は吐き気や嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状。調査機関KFFによる最近の調査では、GLP-1受容体作動薬を服用した成人の約13%が副作用を理由に使用を中止したと回答している。

効果の比較

リリーが資金提供した比較試験では、ゼップバウンド投与群はウゴービ投与群より約2インチ(約5センチメートル)多く腹囲が減った。

ゼップバウンドは72週間で平均47%多く体重を減らした。ゼップバウンド投与群は、体重の25%以上を減らす確率がウゴービ投与群の約2倍だった。

腹囲の減少は、内臓脂肪の減少を示す重要な指標とされる。腹部脂肪は心臓発作や脳卒中、糖尿病のリスク要因とされ、医師らは腹囲を身長の半分以下に抑えるよう推奨している。

両薬とも減量以外の効果を持つ。ウゴービは肥満症と心疾患のある患者の心臓発作などの予防効果が実証された唯一のGLP-1受容体作動薬で、ゼップバウンドは睡眠時無呼吸症候群の治療薬として初めて承認された薬剤だ。

リリーが開発中の次世代薬レタトルチドは、GLP-1とGIP、「グルカゴン」の3つのホルモン受容体に同時に作用するもので、後期臨床試験で平均23%の体重減少を示した。肥満と膝関節炎の患者を対象にした試験では膝の痛みが62%以上軽減された。

価格動向は

リリーとノボは、保険未加入者向けに現金価格の引き下げを開始している。25年11月には、トランプ政権との合意により、メディケア(高齢者向け公的医療保険)および自費患者の双方に適用される値下げが発表された。

自己負担の場合、月数百ドルの費用は依然として高額で、多くの患者には手が届かない。

トランプ政権との合意では、両社は今後発売する錠剤の最低用量は月額149ドル(約2万3300円)となる見通し。

保険適用状況は

多くの患者は、高額な薬剤を保険適用の対象外とする保険会社の方針により適用を受けられないでいる。その結果、自己負担するか、最近までは調合薬を探すしかなかった。

コンサルティング会社マーサーの24年全米雇用主健康保険調査によると、大企業の約44%が肥満症治療薬を適用対象としながらも、ほぼ全てが特定の厳しい基準を満たす者に対象を限定していた。

65歳以上を対象とするメディケアは従来、肥満症治療薬をカバーしてこなかった。規制当局が睡眠時無呼吸症候群治療薬としてゼップバウンドと心疾患治療薬ウゴービを承認したのを受け、ここ数年でこれらの適応症に対する保険適用を開始した。

トランプ政権との合意では、価格引き下げと引き換えにメディケアの適用範囲を拡大することが盛り込まれた。

BMI(体格指数)が27-29で糖尿病予備群や心疾患を持つ人、BMIが30台前半で高血圧や腎疾患、心不全のある人、BMIが35を超える人などが体重管理のみを理由に薬剤を入手できるようになる。

これらの変更は26年半ばに実施される見込みで、患者の自己負担は月50ドル程度に抑えられる見通し。

アナリストによれば、メディケアの適用範囲拡大で約1000万人が新たに薬剤にアクセス可能になると分析されている。リリーによると、現在、約850万人がこれらの薬を使用している。

供給不足は続いているのか

リリーとノボは、発売後数年間は需要に供給が追いつかず供給不足が続いた。米食品医薬品局(FDA)によれば、25年初頭には供給不足はおおむね解消された。

錠剤版はいつ登場するのか

錠剤版は26年から患者が入手可能になる見通しだ。ノボは25年12月に米国でウゴービ錠の承認を取得し、26年1月に販売を開始する予定。

試験では、25ミリグラムを1日1回服用した被験者が64週間で体重の約13.6%を減らした。同社は欧州やその他地域でも25年後半に承認申請したとしている。

FDAは25年に新設した優先審査制度の下でリリーの経口薬「オルフォグリプロン」の審査を迅速化。リリーのデーブ・リックス最高経営責任者(CEO)は、26年3月にも承認が得られるとの見通しを示している。

ファイザーやストラクチャー・セラピューティクスなども独自の肥満症治療薬の錠剤開発を進めている。

原題:Weight-Loss Drugs Are Changing. Here’s What to Know: QuickTake(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2025 Bloomberg L.P.