新型コロナウイルス禍以降、米医療保険制度改革法(オバマケア)で設立された「マーケットプレイス(州や連邦運営の医療保険仲介サービス)」経由で保険に加入する何百万人もの米国人は、保険料負担を抑えるため拡充された補助金に依存してきた。

月々の保険料を引き下げるこの補助金(保険料に対する税額控除)増額は、低所得の加入者の費用負担を和らげると同時に、より中所得層の世帯にも支援を広げる目的で設計された。

しかし、補助金増額は今年末で失効する予定で、それに伴い保険料が急上昇し、何百万人もの人が無保険状態に陥る可能性がある。連邦議会では延長の是非を巡って意見が割れており、広く利用されてきたこの支援策の先行きは不透明だ。知っておくべきポイントは次の通り。

オバマケア補助金とは何か?

Photographer: Joe Raedle/Getty Images

医療保険制度改革法は2010年制定の法律で、個人で保険を購入する人々への補助金の提供や、民間保険会社に対する新たな規則の設定を通じて医療保険へのアクセスを拡大した。補助金は税額控除の形で支給され、加入者が支払う月額保険料を引き下げる仕組みだ。新型コロナ禍以前、こうした補助金は連邦貧困水準の400%までの所得の個人・世帯に限られており、多くの中所得層の加入者は高い保険料負担に直面していた。

議会民主党は21年、いわゆる「拡充プレミアム税額控除(EPTC)」を成立させ、健康危機の期間中にオバマケアの保険料負担を引き下げた。この税額控除により、オバマケアの補助金は初めて貧困水準の4倍を超える所得層にも拡大され、個人では年収約6万3000ドル(現行レートで約980万円)弱、4人家族では約12万9000ドルまでが対象となった。この水準を超える所得層については、一般的な保険プランの保険料負担が世帯所得の8.5%に抑えられている。

拡充税額控除は、下位の所得層についても必要な保険料負担を引き下げた。貧困水準の150%未満、25年時点で個人約2万3000ドル、4人家族約4万8000ドルの所得層は、一般的なプランで保険料を支払う必要がなくなった。貧困水準の200%までの所得層では、保険料は所得の2%が上限とされた。

オバマケアのプランに加入する際、申請者は翌年の見込み所得を申告する。補助金はその推計に基づいて算出され、税額控除は保険会社に直接支払われることで、加入者の保険料が引き下げられる。実際の所得が申告時の見込みを上回った場合、翌年に確定申告を行う際、税額控除の全額または一部を返還しなければならない。

誰が対象か?

これらの補助金は、オバマケアの適用対象となる全ての人々が利用できる。具体的には、雇用主を通じた保険やメディケイド(低所得者向け医療保険制度)、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)、児童医療保険プログラム(CHIP)の対象外となる米国市民および合法的居住者が含まれる。25年にオバマケア保険に加入している人の90%強は、自己負担の保険料を抑えるため、この税額控除に依存していた。

補助金は医療保険加入にどのような影響を与えたか?

拡充税額控除が21年に導入されて以降、オバマケアに基づく保険の加入者数は急増し、20年の約1100万人から25年には2400万人へと2倍超に拡大した。

超党派の医療調査機関KFFによると、補助金の導入を受けて無保険の米国人全体の人数も減少し、19年の約2900万人から23年には過去最低の約2500万人まで減った。

議会は補助金増額を延長するのか?

議会民主党は一様に、新たな立法によってこれらを延長したい考えだが、共和党は意見が割れている。共和党は総じてオバマケアに批判的で、拡充された補助金は期限切れにすべきだと考える向きが多い。オバマケアの費用を21年以降押し上げて、10年間延長すれば3000億ドル超の財政負担になるとしている。

一方、オバマケアを利用する人は2400万人超に上り、共和党が主導する州での加入率が相対的に高い。これが党内の政治判断を難しくしている。この問題を巡っては、オバマケア加入者が特に多い選挙区を抱える中道派や保守色の強い議員の一部が、党指導部や党内主流と対立する構図となっている。

一部の議員は補助金を修正した上で延長する超党派の妥協案を模索するため民主党と連携しており、さらに少数ながら、民主党主導の単純な補助金延長案を支持して党指導部に造反する動きもある。

連邦議会議事堂の外で記者会見した民主党のジェフリーズ下院院内総務(中央、12月18日)

共和党が上下両院を掌握し、トランプ大統領がこの問題に距離を置く姿勢を取っている中、超党派の支持があるにもかかわらず、税額控除が延長される可能性は低い。KFFが10月27日から11月2日に実施した世論調査によると、米国人の4分の3が補助金増額の継続を支持していると答えた。

補助金増が失効した場合、どのような影響がありそうか?

拡充税額控除が失効すれば、オバマケアを利用する人々の自己負担保険料の平均は2倍超に跳ね上がる見通しだとKFFは指摘する。医療提供者が少ない地域に住む高齢者は、平均を大きく上回る水準まで自己負担保険料が急上昇する可能性が高い。一方、若年層の場合、上昇幅は比較的抑えられると見込まれている。

保険料の上昇幅は個人の所得水準にも左右される。貧困水準の400%を超える所得層は最も大きな打撃を受け、補助金を完全に失う。これを下回る層も負担増は避けられない。ただ、これまでよりも小さめながらも税額控除の対象であり続けるため、上昇幅は比較的限定的になる見通しだ。

米議会予算局(CBO)によれば、こうしたコスト上昇により、今後10年間で約400万人が医療保険を失う可能性がある。

補助金増額の失効は、米経済の6分の1を占める医療セクター全体にも連鎖的な影響を及ぼす可能性が高い。医療保険を購入する人が減れば、保険会社の収入も減少する。さらに、保険料が上昇し、若く健康な人々が無保険のリスクを取るようになれば、保険プールは高齢化・高リスク化が進み、コストは一段と上昇する悪循環に陥る。

センティーン、モリーナ・ヘルスケア、オスカー・ヘルスなどの保険会社は、影響を最も大きく受ける可能性がある。ユナイテッドヘルス・グループ、エレバンス・ヘルス、シグナ・グループもマーケットプレイス通じた保険商品を販売しており、補助金増額が失効すれば打撃を受ける。

病院もまた、医療費を支払えない無保険患者の治療を担うことで、財務面の圧力が強まる恐れがある。

原題:Why Obamacare Premiums Are Set to Rise Sharply: QuickTake(抜粋)

--取材協力:Rachel Cohrs Zhang.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2025 Bloomberg L.P.