人工知能(AI)依存度を高める投資銀行業界で、競合他社に優位に立つため、過去に手掛けたディール関連データを集約する動きが広がっている。

モーリスやフーリハン・ローキーなどのブティック型投資銀行は、過去のディール履歴からデータセットを構築し、社内のバンカー業務を支援。顧客へのデータ販売で収益を上げている企業もある。複数の経営幹部が9日に開催されたゴールドマン・サックス金融サービス会議で明らかにした。

モーリスのナビッド・マームーザデガン最高経営責任者(CEO)は、2007年の創業以来「過去18年間にわたって収集してきた多くのデータを統合し、AIツールに組み込めるようにする方法を検討する取り組みを進めている」と説明。案件の獲得やより良い助言の提供、ディールの成立に向けてデータをどう活用するかが重要との認識を示した。

Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

こうしたデータ構築は、バンカーと顧客の関係に依然大きく左右される業務において、テクノロジーを活用し競争力を高めようとする金融業界全体の動きの一環。各行は自社開発のAIツールに加え、元ラザードのバンカーらが立ち上げたスタートアップ、ロゴのような外部のAI技術も利用している。

フーリハン・ローキーは中規模の企業の合併・買収(M&A)で高い取扱件数を誇るが、経営陣は自社データの規模が優位性につながっていると話す。

スコット・アデルソンCEOは「統計的に有意な規模のデータセットを持つことで、他社にはない情報に基づき異なる角度から分析を行うことができる」と説明した。

昨年、ブラックロックの幹部を採用しデータ戦略を強化したフーリハン・ローキーは、ポートフォリオ評価事業で得たデータを活用してプライベートクレジット向けのデータプラットフォームを立ち上げ、6万件超のローン評価データを集約し、一部顧客に提供している。

データとAIの導入拡大で、単純作業の効率が向上することから、投資銀行業務の将来にも影響を及ぼす可能性があり、投資銀行アナリストの採用が減少し始めるとの懸念も出ている。

アデルソン氏は「最終的に、シニアバンカーがいる限りジュニアバンカーも必要だ」と述べた上で、「AIの導入によって取引のスピードが飛躍的に上がり、バンカー全体の生産性も高まるだろう」と語った。

モーリスのマームーザデガン氏によると、社内では「将来的にこれまでほど多くのジュニアバンカーが必要かどうか」を巡って活発な議論が交わされているが、同社は依然として過去最大規模のアナリスト採用を続けているという。

PJTパートナーズの創業者、ポール・トーブマンCEOは、過去20年で登場した生産性ツールが顧客へのサービス向上につながったと指摘。AIやデータツールの拡大も、競合他社に対して優位性を維持する方法を銀行がさらに真剣に考えるきっかけとなるとの見方を示した。

トーブマン氏は「生産性は確実に向上するだろう。そのとき問題になるのは、その生産性の余剰をどう活用するかだ」と語った。

原題:Banks Mine Decades of Deal History to Feed AI Banking Tools(抜粋)

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