日本のサイバーセキュリティー政策を指揮する「国家サイバー統括室 (NCO)」のトップである飯田陽一内閣サイバー官は9日、サイバー攻撃への防御で日本は欧米諸国に後れを取っていると指摘した。企業部門全体で改善の必要性を訴えている。

通商産業省(現経済産業省)出身の飯田氏は、「能力向上に向けた意欲はあるが、まだ始まったばかりだ」と述べた。東京都内で開催されたサイバーセキュリティーの国際会議「CYDEF 2025」に合わせてブルームバーグ・ニュースの取材に応じた。インタビューは英語で行われた。

Photographer: Alastair Gale/Bloomberg

ここ数カ月にランサムウエア攻撃による情報漏えいが相次ぎ、日本企業のセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)さが浮き彫りとなった。

システム障害が発生したアサヒグループホールディングスでは一部業務が停止に追い込まれ、アスクルでは電子商取引(EC)プラットフォームに障害が発生した。日本経済新聞社は、ウイルス感染により社員や取引先などの情報が流出した疑いがあると発表した。

飯田氏は、同会議の基調講演で、日本に対するサイバー攻撃は深刻度と量が大幅に増していると指摘。インターネットに接続された機器は約13秒に1回の頻度でサイバー攻撃が疑われる通信を受けているという。

講演後の取材で飯田氏は、サイバー攻撃への防御に必要なリソースが不足している日本の中小企業が最も脆弱(ぜいじゃく)だと指摘。ただ、大企業であっても決して安全ではなく、「何らかの抜け穴やミスが見つかっても驚かない」と語った。

日本は、サイバーセキュリティーの水準を少なくとも米国や欧州など先進諸国の水準まで引き上げることを目指している。今年5月にはサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の関連法が成立。攻撃元のサーバーなどへの侵入・無害化や、攻撃元に関する情報開示などサイバー攻撃の抑止を図る。

サイバーセキュリティーは、高市早苗政権下で重点投資分野の一つに位置付けられている。政府は7月にサイバー対策の司令塔組織として国家サイバー統括室を新設し、飯田氏をトップに据えた。

国家の関与が疑われるハッキング活動が活発化する中、日本は同志国と連携を強化している。9月には「ソルト・タイフーン」として知られる中国政府系ハッカー集団に関する注意喚起文書を各国と共同で公表。このハッカー集団は通信会社やその顧客を標的にしているとされる。

飯田氏によれば、中国やロシア、北朝鮮が多くのサイバー攻撃の発信源とみられるが、その背後の指示役が明確でない場合も多い。

台湾有事を巡る高市氏の国会答弁を受け、日中間ではこの1カ月の間に緊張が高まっている。飯田氏は、中国からのサイバー攻撃に目立った変化は見られず、「そのような動きは把握していない」と述べた。

飯田氏は、最大の課題の一つとして、官民双方でサイバーセキュリティー対応を強化するための人材育成を挙げた。多要素認証の活用など、基本的なセキュリティー対策に対する認識を一段と高める必要があるという。

「パスワードの変更といった基本的な行動でもサイバー攻撃を防ぐことが可能だ」と同氏は述べた。

原題:Japan’s Cyber Chief Warns Nation Still Behind on Cybersecurity(抜粋)

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