米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に誰が就くかは重要か。もちろんだ。ブルームバーグの最新報道によれば、米国家経済会議(NEC)委員長のケビン・ハセット氏が最有力候補に浮上しているが、この重大な人事決定に向けて現時点で打てる手は多くない。

記事は一読の価値があるし、予測市場もハセット氏最有力の報道を真剣に受け止めている。ただ、ハセット氏の指名が確実だとまではみられておらず、コラム執筆時点での確率はポリマーケットで57%、カルシで56%となっている。

来年5月に空席となるFRB議長ポストを巡り、激しい競争が繰り広げられてきた。ベッセント財務長官はポストへの関心を否定。複数の候補が取り沙汰されてきたが、選択肢はハセット氏のほか、FRB現職理事のクリストファー・ウォラー氏、元理事のケビン・ウォーシュ氏、ブラックロック幹部のリック・リーダー氏に絞られたようだ。

ウォーシュ氏は内情に通じている上に経験豊かなほか、今は部外者でコミュニケーション能力にも優れているので、当初は最有力候補とみられていた。その後はウォラー氏が優勢となったが、直近2回の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、より大幅な利下げを主張するという行動に出ず、不利となった可能性がある。こうして、現在はハセット氏が最有力とされる。

なぜハセット氏なのか。最大の理由は忠誠心とみられる。トランプ氏は8年前にパウエル現議長を指名したことを大きな誤りだったと認識している。ウォラー、ウォーシュ、リーダーの3氏はいずれも、政権から独立した立場を築き得る。

シグナム・グローバル・アドバイザーズのジョージ・ポラック氏は、トランプ氏が最終的にハセット氏を指名すると予想。その理由として、「ハセット氏が政権の優先課題を最も支持しそうな候補だとトランプ氏が確信しているためだ」と述べていた。さらに、ハセット氏を「最も自分と考えが近く、また自分に恩義を感じ、その結果として最も協力的だと見なす」だろうという。

次期議長はまた、インフレを再燃させることなく、金利をさらに大きく引き下げることは可能とのトランプ氏の主張に歩調を合わせる必要がある。ネッド・デイヴィス・リサーチのジョー・ケイリッシュ氏は「政権は根本的に、インフレを再燃させずに経済がより速く成長できると信じる人物を求めている」とみている。

FRB指導部が劇的に刷新される可能性は小さくなりつつある。ホワイトハウスは、バイデン氏が任命したクック理事を住宅ローン詐欺の疑いで解任しようとしているが、その根拠はやや弱いとみられ、この動きも勢いを欠いている。

過去6カ月間の議長レースやクック氏をめぐる騒動は、長期的な金融政策見通しをほとんど動かしていない。フェデラルファンド(FF)金利が2027年初めに3%弱で底打ちするとの想定は数カ月にわたり維持されており、ハセット氏最有力の報道後も変化はほとんどなかった。

最も重要な市場である10年物米国債市場では、ブルームバーグによる同報道が一定の影響を与えたものの、程度はそれほど大きくなかった。利回りは低下基調にあり、一時4%を下回ったが、その後は方向感を欠いた。

だからといって、この人事が重要でないという意味では決してない。極めて難しい職務であり、名前が挙がっている候補者はいずれも就任に十分な資格を備えている。

レースの行方が市場に与える影響が限定的なのは、向こう4年間に何が起きるのか、そして議長がどのような重要判断を迫られるのかが分からないためだ。

2005年に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領がベン・バーナンキ氏をFRB議長に指名した際も、市場に動揺はほとんどなかった。候補者の中で最も明白に適任とみられていたほか、アラン・グリーンスパン議長からの継続性を象徴する存在で、批判もほとんどなかった。

バーナンキ氏はその後、FRB史上で最も激動の時期を率いた。サブプライムバブルの拡大を許し、複数の救済措置を主導、量的緩和(QE)を開始した。政府の役割縮小を強く支持する市場参加者からは批判を招いたが、同氏は後にノーベル賞を受賞した。

バーナンキ氏との比較がとりわけ重要なのは、同氏がFRB議長に指名された当時、NEC委員長を務めていた点だ。これは現在のハセット氏と同じで、市場と政治の両面で安全な選択肢と受け止められた。

トランプ氏への忠誠心の象徴とみられることは逆に、ハセット氏が就任した際には市場の信認を得るため、独立性を示さざるを得ない状況を生む可能性がある。試練の時は必ず訪れるだろうが、バーナンキ氏が経験したような熾烈(しれつ)な局面は避けられることを願いたい。

現時点で重要なのは、ハセット議長誕生の可能性に市場が過度な反応を示していないことだ。これが市場による最初の試験だったとすれば、ハセット氏はクリアできたことを意味する。最終的に指名される可能性を高めることにもつながるだろう。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:We Need to Talk About Kevin Hassett at the Fed: John Authers(抜粋)

--取材協力:Richard Abbey.

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