エヌビディアの先端AI(人工知能)半導体(1枚当たり数万ドル)は、今年の大手テック企業投資(総額4000億ドル=約61兆9000億円)の相当部分を占める。AIとクラウドインフラ、データセンターに費やす投資総額は、2029年末までに3兆ドルを目指す勢いだ。

しかし19世紀の鉄道やドットコムブームの光ファイバーケーブルと異なり、AIブームの起爆剤である画像処理半導体(GPU)は耐用年数が恐らく5年程度と短い。

エヌビディアや競合他社が性能の高い新モデルの投入を続けることを前提とすれば、iPhone同様に今の価値が失われ、すぐ更新が必要になるかもしれない。競争力維持のため、OpenAIなどの顧客は導入を継続せざるを得ない。

(OpenAIは別として)設備投資が最も盛んな企業が持つ潤沢な資金は心強いが、半導体の短い耐用年数と気前のよい会計上の前提はそれほど安心できない。

巨大データセンターで高度な計算能力を構築し、クラウドサービスやAI向けインフラを提供する「ハイパースケーラー」について、減価償却を過小評価しているとマイケル・バーリ氏が今週、X(旧ツイッター)で警告した。世界的な金融危機に先立ち、住宅ローン証券下落に賭けた同氏の投資は「世紀の空売り」と呼ばれた。

AI設備投資は単発で済まず、巨額の支出が繰り返される危険がある。エヌビディアには好都合だが、グーグルやマイクロソフトなどハイパースケーラーにとって必ずしもそうではない。

減価償却費の津波に備え、他のコスト抑制に特に気を配らなければならない企業も存在する。アマゾン・ドット・コムは、約1万4000人を削減する計画だ。

 

ウォール街は航空機や自動車といった減価償却ペースの速い資産関連のファイナンスには慣れている。とはいえ、新興企業や未公開企業に投資ファンドが直接貸し付けるプライベートクレジットで、GPUを担保に設定するケースが増えており、不安になる。

AI計算に特化したクラウドサービスを提供するスタートアップ企業群、いわゆる「ネオクラウド」への貸し付けが、これに含まれる。ネオクラウド事業者は、GPUへのアクセスを貸し出すビジネスを展開し、マイクロソフトだけで契約額は600億ドルを上回る。

米投資会社ブラックストーンやマグネター・キャピタル、マッコーリーがネオクラウド事業者に資金を提供している。

DAデビッドソンのテクノロジーリサーチ責任者ギル・ルリア氏は「減価償却ペースの速いGPU関連の債務が数百億ドル規模から数千億ドル規模に膨れ上がろうとしており問題だ。深刻な事態になりかねない」と警戒する。

 

テック企業はAI投資による生産性向上や巨額の収入を誇示しており、こうした懸念は不可解に聞こえるかもしれない。だがテック投資家は、減価償却がどれほど業績に打撃を与えるか忘れてしまったように思える。

アマゾンは今年初め、一部サーバーとネットワーク機器の耐用年数の評価を6年からより控えめな5年に変更した。AIと機械学習を中心とする「技術開発の加速」を理由に挙げた。

それらの機器の耐久性に関する統一見解は、残念ながらほとんど存在しない。

ネオクラウド事業者のコアウィーブは、初期レンタル期間(平均4年)終了後にプロセッサーの再契約に成功した実績に基づき、6年というGPUの減価償却方針に満足という。

 

ネオクラウド事業者は、ビッグテックのような巨額利益や現金の備えがなく、数十億ドル単位の借り入れで資金を賄っている。ブルームバーグの集計データによれば、コアウィーブのリース負債を含む純債務は169億ドル。同社は今年最大140億ドル、26年はその倍以上の設備投資を予定し、実行されれば英シェルなど国際石油資本(メジャー)の通常投資額を上回る規模になる。

コアウィーブは借り入れコスト抑制で前進が見られるが、金利2桁の初期融資もあり、利払いが営業利益を上回る状況だ。

ネオクラウド事業者が安定したサービス顧客との複数年契約を通じて、投資を回収できる場合、リスク管理は可能だが、実績のない新興企業からの収入に依存すれば危うくなる。コアウィーブは、受注残560億ドルのうち投資適格の顧客との契約が60%以上を占めると今週説明した。

それでもGPUの価値が想定以上に速いペースで下落すれば、楽観的なネオクラウド事業者の財務モデルが破綻しかねない。計算能力をそれほど必要としないAI技術のブレイクスルー(飛躍的進歩)が起きたり、需要が不足したりすれば、半導体チップの大量処分を迫られる恐れもある。

エヌビディアの株価高騰はAIブームの最もシンプルな指標だが、デットファイナンス(借り入れや社債発行)と減価償却会計のより不透明で複雑な世界には、AIバブルを崩壊させる危険が潜んでいる。

 

(クリス・ブライアント氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:AI Bubble Is Ignoring Michael Burry’s Fears: Chris Bryant(抜粋)

(耐用年数の評価に関する情報を追加して更新します)

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