英ロンドンの新たなバス路線が注目を集めることはまれだが、9月に運行を開始した中心部と南東部を結ぶ路線「BL1」は例外だ。注目を浴びている理由は停車地そのものではなく、その数の少なさにある。

BL1は全長4.5マイル(約7.2キロメートル)の区間でわずか3カ所しか停車しない急行バス。停留所の数は通常の路線バスのおよそ3分の1だ。こうした「バス高速輸送システム(BRT)」は、世界では一般的だがロンドンではまれな公共交通ソリューションだ。

BRTは、高速バスを長距離にわたり少ない停車地で運行するシステムで、専用レーンや鉄道の駅のような設備を備えた停留所など、専用インフラを使う場合もある。1974年にブラジル・クリチバ市で初めて導入され、地下鉄や軽量軌道交通(LRT)などの整備が財政的に難しい大都市で採用が進んできた。

アジアの都市が世界で最も多くBRTシステムを持ち、最も規模が大きいのはインドネシア・ジャカルタだ。北米でも、郊外型都市のインディアナポリスやカナダ・オンタリオ州ブランプトンなどで成功例が見られる。

地下鉄や鉄道網が発達したロンドンでは、これまでBRTへの関心は低く、空港連絡の急行バスが数本ある程度だった。しかし、2023年にロンドン交通局(TfL)が「スーパーループ」と呼ばれる、郊外の主要な街を環状に結ぶ高速バス路線網を導入したことで状況は変わった。

今回のBL1の始動で、この放射状ネットワークに新たな枝線が加わった。BL1は中心部と郊外を直接結ぶ最初のBRTで、計画されている10路線の一つだ。

TfLがこうした路線の拡大に前向きなのは、すでに成果が出ているからだ。24年の報告書によると、既存サービスの代替となるスーパーループ3路線では利用者数が20%増加した。運行速度も上がっており、北部区間の平均速度は時速12マイルと、ネットワーク全体の9.2マイルを上回る。

最も顕著なのは利用者満足度で、スーパーループ利用者の88%が「既存のロンドンの平均的なバスサービスより良い」と回答した。初期投資がわずか600万ポンド(約12億3000万円)だったことを考えると、費用対効果は高い。

しかも使用されている車両は、必ずしも特別なものではない。BRT向けに導入が進む新型の電動二階建てバスは、全座席にUSBポートを備えるなど設備が充実しているが、同様の車両はすでにロンドン各地で運行されている。TfLは34年までに全てのバスを電動化する目標を掲げている。

スーパーループの成功が際立つのは、ロンドン全体ではバス利用者が大幅に減少している時期に導入されたためだ。14年から25年までの間に乗客数は25%も減少した。

これは、自転車道の整備や新たな鉄道路線「エリザベスライン」の開業などで、他の持続可能な交通手段への移行が進んだことが影響している。一方で、自家用車の利用率は低下し続けている。

それでもスーパーループが好調な理由は三つある。第一に、他の交通手段と直接競合していないこと。第二に、既存ネットワークの隙間を埋めるよう設計されていること。第三に、ロンドンの通常のバスにとって最大の弱点である「遅さ」を克服したことだ。

こうした成果は、入念なルート設計によって実現した。TfLの公共交通計画部門ディレクター、ジェフリー・ホブス氏によると、「高速バスのルート設定には明確な指針がある」という。

同氏は「通常のバスも運行する主要な交通幹線上に配置する必要がある。さもなければ一部利用者の利便性が失われる恐れがある。また、鉄道がすでに提供しているサービスと重複させてはいけない。バスは鉄道ほど速くないということを受け入れており、無理に競おうとは考えていない」と語った。

原題:London’s ‘Superloop’ Buses Seek to Speed Suburban Commutes (1)(抜粋)

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