(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)理事会は、近くメンバーの大幅な入れ替わり期間に入る。約2年間でラガルド総裁を含む3分の2が交代する。
今週ルクセンブルクで行われるユーロ圏財務相会合では、デギンドス副総裁の後任に関する議論が始まる可能性がある。6人から成る理事会の人選は、個人の資質だけでなく、政治にも大きく左右される。

どの加盟国が候補者を擁立し、その候補をどの国が支持するかは、さらに大きな役職を狙う各国の野心を浮き彫りにする可能性がある。すなわち、2027年に空席となるチーフエコノミストと総裁の地位だ。
域内の経済大国であるドイツとフランスは、これらの役職に狙いを定めている。両国とイタリアは、ECB理事会に常に自国の代表を送り込んできた。
スペインやオランダにもその野心はあり、東欧諸国も初の出身理事を出したい考えだ。一方、南欧諸国も北部の国々よりもうまく債務危機を乗り切ったことの証明として、理事の枠を求めている。

ECB理事会の人選で重要になるのは、大国と小国、北部と南部、さらに理想的には性別的にもバランス良く配分することだ。新たに指名された新理事らにとって、課題は金利設定にとどまらない。構造的な変化を遂げつつある世界で、拡大するユーロ圏をかじ取りし、デジタル通貨を導入して経済の安全保障とユーロの国際的な地位を強化することなども求められる。
ブルームバーグはECB自身や欧州議会、加盟国首脳らが正式に関与する現段階において、各国政府の戦略や候補者本人の意向に詳しい関係者の情報に基づき、人事の動向を以下にまとめた。関係者はいずれも、部外秘の情報だとして匿名を要請した。
副総裁
デギンドス副総裁の後任には、フィンランド中銀のレーン総裁が関心を示しているとされる。レーン氏は中銀と政治にまたがる形でキャリアを築いてきた。
レーン氏は欧州委員を3回務め、フィンランド経済相、同国の議員および欧州議員だった経験を持つ。同氏の中道的な姿勢も支持を集めそうで、強力な候補になりそうだ。有力な対抗馬が現れるとすれば女性候補だろう。ポルトガル中銀のラポソ副総裁、ギリシャ中銀のパパコンスタンティヌ副総裁はいずれも高く評価されている。
ポルトガル、ギリシャとも過去にECB副総裁の座を得ていたことがあり、ギリシャの場合はストゥルナラス総裁も争いに加わる可能性がある。ただ、後になって空席となる総裁に男性を推すことができるよう、副総裁には女性を支持する加盟国もありそうだ。
このほか、スペイン出身のカルビニョ欧州投資銀行(EIB)総裁、ポルトガル出身のアルブケルケ欧州委員(金融サービス担当)も候補に挙がる。イタリアはチポローネ理事が既におり、任期8年の2年目に入ったばかりのため新たな候補を出す可能性は低い。
さらに、クロアチア中銀のブイチッチ総裁の動向も注目される。2023年の同国のユーロ加盟を導いた同氏は、チーフエコノミストの候補としても名前が挙がっている。現チーフエコノミストでアイルランド出身のレーン氏は、副総裁の選から漏れた後で、チーフエコノミストに指名された。
チーフエコノミスト
ECBのチーフエコノミストは給与や序列では副総裁より下だが、影響力は上だ。ECBが四半期ごとに提示する経済予測を監督し、金融政策委員会で金利設定の提案を行うのもチーフエコノミストだ。
これは、とりわけフランスにとって魅力が大きい。フランスはトリシェ、ラガルドと2人の総裁を輩出し、連続で3人目の総裁を出せる可能性は低いが、チーフエコノミストを手中に収めれば影響力を確保できるからだ。

フランス出身者となれば、経済協力開発機構(OECD)の元チーフエコノミストで、オランド、マクロン両政権の政策立案に関わり、現在はサンタンデールのフランス部門責任者を務めるローレンス・ブーン氏が有力。経済学者のエレーヌ・レイ、フランス中銀のアニエス・ベナシーケレー副総裁、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、ピエールオリヴィエ・グランシャ氏らも候補になる。
ドイツも総裁を確保できなさそうだとなれば、関心を示す可能性がある。ドイツはユーロ発足当初のイッシング氏、同氏の後任となったシュタルク氏と、2人のチーフエコノミストを出している。
総裁
ラガルド氏の次を狙う争いは、ラガルド氏の就任前から既に始まっていた。ドラギ前総裁がスペイン中銀のデコス前総裁を将来のECB総裁候補として育てているとの観測が広くあった。
デコス氏は18年から24年までスペイン中銀総裁を務めた後、国際決済銀行(BIS)総裁に就任した。同氏は輝かしい経歴を持つものの、政治的な後ろ盾に乏しく、BIS総裁に就任して間もないため、ECB総裁に転じる公算は小さい。
クノット前オランダ中銀総裁の名前も挙がる。同中銀総裁を14年にわたって務めたクノット氏は、ECB政策委員を6月に退任したが、当時在任期間が最も長いメンバーだった。経済政策と金融監督の両面で実績があり、金融安定理事会(FSB)の議長を務めた経験もある。ラガルド氏も後任にクノット氏を望んでいると関係者は話す。
5日に公表されたポッドキャストで、ラガルド氏はクノット氏を次期総裁に適任だと評価した。「クノット氏は知的でスタミナがあり、人を引き込む能力がある。希少で、極めて必要とされているスキルだ」と述べた。
ただ、デコス氏にしろクノット氏にしろ、ドイツの意向に大きく左右されそうだ。ドイツは初のECB総裁を得られる可能性がどのくらいあるか、考えている様子だ。
ドイツが獲得に動く場合、同国連銀のナーゲル総裁が明らかな候補だろう。ナーゲル氏は中道的な政策路線を打ち出すことに努めており、より広い支持を集めようとしてきた。ただ、同氏は社会民主党(SPD)出身であることから、キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ首相から政治的な支持を得られるかは疑問が残る。
ラガルド氏の2カ月後に任期が切れるドイツ出身のシュナーベル理事も関心を示す可能性がある。ただ、ドイツは欧州委員会のフォンデアライエン委員長、ECB銀行監督委員会のブッフ委員長など他の欧州機関のトップを占めていることから、同国出身者がECB総裁に就くことには反対論もある。
理事
27年後半に任期が切れるシュナーベル理事のポストは、上記の地位をドイツとフランスが得られなかった場合の保険として機能しそうだ。または、小国にチャンスが巡ってくる可能性もある。
クロアチア中銀のブイチッチ総裁、ラトビア中銀のカザークス総裁、スロベニア中銀のバスレ総裁ら、初の中東欧出身理事が誕生する絶好の機会となるかもしれない。
銀行監督委員会の副委員長を兼務するエルダーソン理事は、理事としての任期はまだあるものの、前任のラウテンシュレーガー氏がそうしたように監督委員会副委員長の任期切れとともにECB理事を退任すれば、理事の席はさらに1つ空く。エルダーソン氏はオランダ出身であるため、クノット氏が総裁に就任する場合にも退任の道を選ぶかもしれない。
原題:Race for ECB’s No. 2 Job to Shape Search for Lagarde Succession(抜粋)
--取材協力:Alexander Weber、Alessandra Migliaccio、Sotiris Nikas、Aaron Eglitis、Daniel Basteiro.
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