自民党は4日の総裁選で高市早苗前経済安全保障担当相を第29代総裁に選出した。同党の総裁に女性が就任するのは初めて。

高市氏は就任会見で、「今の暮らしの不安や未来への不安を、夢や希望に変える政策を打ち出す政党だと感じていただけるような党運営を行っていきたい」と抱負を語った。

自民党総裁就任会見に臨む高市早苗氏(10月4日)

高市氏は直ちに党役員人事に着手し、来週前半の早い時期に固める意向だ。会見では「全世代総力を結集して取り組んでいる自民党にしたい」と語った。総裁選で競った4候補全員に活躍していただきたいとも述べた。

15日にも開催される臨時国会で首相指名選挙が行われる。野党が候補者を一本化する見込みは立っていないため、新総裁は首相に選出される公算だ。高市氏が選出されれば初の女性首相の誕生となる。

高市氏は、大胆な金融緩和や機動的な財政政策を柱とした安倍晋三元首相の「アベノミクス」路線を継承する。防衛費など必要な投資には赤字国債の発行も選択肢とし、消費税減税も排除しない意向。金融政策については現行水準の0.5%を維持すべきだとの立場だ。

就任会見では、財政・金融政策に責任を持たなければならないのは政府とした上で、政府・日銀の共同声明(アコード)については「今のアコードがベストなものかどうかしっかり考えていきたい」と語った。その上で、日銀とのコミュニケーションを密に取り、足並みをそろえる必要があると述べた。

今回の結果は小泉進次郎農相の勝利を見込んでいた市場にとって想定外となった。週明けの金融市場では金利上昇、円安圧力となる一方、日本株にとってはポジティブに受け止められそうだ。

みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、財政リスクから超長期債は売られやすいと予想。「ドル・円は150円を目指し、日本株は最高値更新」もあり得るとみる。日銀による10月利上げは困難とみられてもおかしくない一方、過度に利上げに否定的なら円安が進み、利上げの必要性を高めるとも語った。

財政健全化に向けては、純債務残高の対国内総生産(GDP)比が緩やかに低下する財政運営を目指す。政府が指標の一つとしている債務残高から政府保有の金融資産を差し引いたもので、より柔軟な財政支出を可能とする。

明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは、総裁選で消費減税の主張を封印するなど、「財政健全化が置き去りにされることはない」と指摘。金融政策に関しては、リフレ派的だが、インフレ抑制が求められる中での利上げけん制は矛盾を抱えることになり、「極端なことは言えないだろう」と語った。

連立

今回の総裁選は、衆参両院で与党が過半割れするなど、自民党にとって平時ではない状況下で行われた。政策推進には野党との調整が不可欠で、党内をまとめるだけにとどまらないリーダーシップが求められることになる。

新総裁選出時の高市氏(4日、都内)

目下、課題となるのは国会でどう多数派を形成するかだ。就任会見では、自民・公明の連立が「基本中の基本」とした上で、政治安定には首相指名選挙までの連立合意が大事だと指摘。相手のある話のため、合意の「時期は分からないが、できるだけ急いでいろいろな方の意見を聞きたい」と述べた。

連立拡大も視野に当面は野党と政策ごとの協力が欠かせない。まずは物価高に対応する経済対策の策定と、その裏付けとなる年内の補正予算編成の着手が喫緊の課題となる。

外交   

外交日程も待ち受けている。10月末には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が予定されている上、トランプ米大統領の訪日の可能性も報じられている。

高市氏は、日米同盟の強化をしっかり確認することが大事と発言。日米通商合意に関する質問に対しては、関税も投資も「二国間で合意したことは守っていく」と回答した。「運用上、日本の国益に合わないことが起きた場合には、日米協議の枠組みの中でしっかりと申し上げるべきことだと考えている」と語った。

今回の総裁選には高市、小泉両氏のほか、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安保相、茂木敏充前幹事長の計5人が立候補。小泉氏との決選投票では、高市氏が議員票と都道府県票の合計で185票を獲得し、同156票だった小泉氏を上回った。

(総裁就任会見での発言を追加して更新しました)

--取材協力:村上さくら、梅川崇.

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