(ブルームバーグ):モーターメーカーのニデックによる不適切会計の疑惑が、株式市場だけでなく社債市場にも波紋を広げている。ニデック債と国債の利回り差、いわゆる「社債スプレッド」が過去最大に拡大した。企業の信用力を投資家がどのように測っているかの一つのバロメーターを解説する。
社債スプレッドって何
社債スプレッドとは、企業が発行する社債と、国が発行する国債の利回り(投資に対して得られる利益の割合)の差を指す。国債がほぼリスクゼロの資産とみなされるのに対し、社債には倒産などの信用リスクがあるため、投資家はその分のリスクプレミアムを求め、利回りは国債より高くなる。
スプレッドは英語で「差」を意味し、金融業界では価格差や金利差を表す際に使われる。つまり社債スプレッドの広がりは、投資家が企業の信用力に不安を感じている、というシグナルだ。
ニデックの社債スプレッドは
社債スプレッドの表示単位はベーシスポイントで、1ベーシスポイントは0.01%に相当する。ニデック債のスプレッドは今回、数字の上では数十ベーシスポイントの変化に過ぎない。ただ、このわずかな変化をどうみるか。市場が企業の信頼にどれほど敏感に反応するかが表れており、企業と投資家の「信頼感の距離」を示すバロメーターと言える。
なぜニデックのスプレッドは拡大しているのか
ニデックは9月3日、経営陣の関与が疑われる不適切な会計処理が行われた可能性を調査するため第三者委員会を設置した。同月26日には、監査法人のPwCジャパンが、十分な監査証拠が得られなかったとして、前期(25年3月期)の有価証券報告書に監査意見を表明しなかった。これは財務情報の信頼性に疑義を投げかけるもの。
市場では、本当の財務状況が見えないとの懸念が広がり、投資家が債券を手放す動きにつながった。結果として、社債価格が下落して利回り格差(スプレッド)が拡大した。
スプレッドが広がると、企業にはどんな影響があるのか
直接的には資金調達コストの上昇につながる。スプレッドが大きいほど、企業はより高い金利を支払わなければ新たな社債を発行できない。ニデックは今後数年で1300億円規模の社債償還を控えており、信用不安が長引けば再調達コストが重くのしかかる可能性がある。
投資家はどのように対応しているのか
社債は主に機関投資家(生命保険会社、年金基金、銀行など)が証券会社を通じて購入しており、その際には社内の稟議(りんぎ)や承認プロセスが必要である。企業への信用リスクが高まると、買う理由を社内で説明しづらくなる。現状ではニデック債を新規に購入する投資家は限られており、取引が細る流動性リスクが意識されれば、さらなる価格下落という負の連鎖を引き起こしかねない。
スプレッドの拡大は個別企業の問題なのか
社債市場における信用プレミアムが、ニデック債の動きから再び注目を集めている。1社の不祥事をきっかけに投資家がリスク感度を高めるのは、市場の常。現時点ではニデック固有の要因が中心だが、信用不安が長引けば日本企業の会計への信頼性全体に影響が及ぶリスクもある。
--取材協力:野上英文.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.