(ブルームバーグ):かつて新しいハイテク製品を購入する際、最大の関心事は厚さと重さだった。2008年にスティーブ・ジョブズ氏が封筒から「MacBook Air」を取り出すと、会場は感嘆の声に包まれた。ノートパソコンの新時代を告げ、人々の肩にかかる負担が軽くなる瞬間でもあった。
性能面での妥協はあったものの、それでも十分な価値があると受け止められた。MacBook Airはノートパソコンの外観や使用感に対する期待を刷新し、その後も進化を重ねた。2013年には「iPad Air」も投入された。
こうした流れの続きとして、アップルは9日に厚さ5.6ミリの「iPhone Air」を発表した。厚さ7.95ミリの新型「iPhone 17」では分厚すぎるという批判の声に応えた格好とも映る。ただ、そうした批判は本当に存在するのだろうか。多くの消費者にとっては厚さよりも、むしろバッテリー持続時間や高性能カメラといった要素が犠牲になることの方が重要なのではないか。
消費者にとっては価格も重要な要素だ。iPhone Airは999ドルで、より高性能なiPhone 17より200ドル高く、フル機能のiPhone 17 Proよりわずか100ドル安いにすぎない(訳注:日本での販売価格はiPhone 17が12万9800円から、iPhone Airが15万9800円から、iPhone 17 Proが17万9800円から)。結局のところ、多くの利用者は端末をすぐにケースに入れるだけに、薄さに対するこの価格差が妥当かどうかは疑問が残る。
では、アップルの狙いはどこにあるのか。米調査会社IDCのフランシスコ・ジェロニモ氏は、今回の刷新はiPhone Airにとどまらず他のモデルも含め、消費者の買い替えサイクルを短縮することにあると指摘する。端末や部品の進化に伴い、外観の差異は年々乏しくなり、買い替え周期は長期化していた。CCSインサイトのベン・ウッド氏は「新型iPhoneをカフェや会議室、あるいは飲食店のテーブルに置いたとき、周囲から『それが新しいiPhoneか』と聞かれる状況は久しぶりだ」と語った。そうした変化を重視する人には、今回の新型iPhone発表は朗報だろう。
薄型競争では、サムスンの「S25 Edge」(厚さ5.8ミリ)が先行している。今年第2四半期に100万台超を売り上げ、IDCの「高価格帯(1000-1600ドル)」スマートフォン世界ランキングで6位となった。ただ、専門家や一般ユーザーからはバッテリー性能の低さを指摘する声も目立つ。
アップルにとって、この程度の販売台数は当然の水準だろう。ただ、S25 Edgeは少なくとも薄型スマホに一定の需要があることを示していると、IDCのジェロニモ氏は指摘する。iPhone Airは来年予定される本格的なiPhone刷新に先立ち、消費者テストや市場調査の役割を担う可能性がある。iPhone Airにはアップル独自の無線チップとモデムが搭載されており、これらを量産するサプライチェーンを稼働させることは、最終的に「2台のiPhoneを合体させたような端末」となる折りたたみiPhoneの準備につながる。その製品こそが、消費者により早い買い替えを促す起点となるだろう。
こうしてiPhone Airは、アップル製品を欠かさず購入する層や、ポケットの小さい細身の服を好む人向けのニッチな製品となりそうだ。実験的な「Vision Pro」と同様、アップルが研究開発と市場調査を公開の場で進める一例といえる。重要なのはこの初代モデルよりも、次世代のiPhone Airなのかもしれない。
9日のアップル株は結局、約1.5%安で取引を終えた。投資家の反応は鈍く、人工知能(AI)戦略とiPhoneの将来に対する真の試金石は来年に訪れるとの認識を映し出している。
(筆者デーブ・リー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米国のテクノロジーを担当。以前はフィナンシャル・タイムズやBBCニュースの記者でした。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Who Actually Wants to Buy a Thinner iPhone?: Dave Lee(抜粋)
コラムニストへの問い合わせ先:New York Dave Lee dlee1285@bloomberg.netエディターへの問い合わせ先:Daniel Niemi dniemi1@bloomberg.net翻訳者への問い合わせ先:New York 宮井伸明 nmiyai1@bloomberg.net
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.