(ブルームバーグ):日産自動車のイヴァン・エスピノーサ社長兼最高経営責任者(CEO)は10日、4月の就任以来進めてきたリストラや資金調達が「計画通り進んでいる」と述べた。その上で経営改革は、近いうちに反転攻勢を視野に入れた新たな段階に進めるとの見通しも示した。
エスピノーサ氏は、予定していた8500億円分の資金調達が完了したと横浜市の本社でのインタビューで明らかにした。懸案事項だった米関税も日米間の交渉が決着したことから、7-9月(第2四半期)の決算では、現在未定としている今期(2026年3月期)の利益見通しが公表できる可能性が高まってきたとする。
資金調達については当面はこの金額で十分とし、今後は「多くの新車を導入する新たな局面に入る」という。中国で今後新車を4-5カ月に1台という「非常に速いペースで次から次へと出していく」といい、通年での同国販売は想定通りかやや上回る水準になるとの見通しを示した。

日産の前期純損益は6709億円の赤字に転落。ホンダと共同持ち株会社設立に向けて交渉を開始したものの、破談に終わった。経営が混乱する中、エスピノーサ氏は急ピッチで経営再建に取り組んできた。
日産は開発スピードが遅く、新車が少ないことも経営悪化の要因の一つに挙げられていた。同氏の言葉通りに新車導入が進めば、業績回復に弾みがつく可能性もある。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは最近の日産について「いろいろな施策を機敏に進め、旧経営陣の時と比べると良くなったと言える」と指摘する。
その一方で、同社は財務やブランドイメージ、顧客基盤や従業員の士気など会社の基盤が痛んでおり、早急な回復は難しいとした上で「本当の意味でのターンアラウンドは、単発的ではなくて一定の期間しっかりとした経営業績を上げることができて初めて可能になる」と述べた。
足元では実際に明るい兆しもみられる。7月単月では世界販売が16カ月ぶりに前年同月を上回った。
根本から見直し
けん引役は世界最大の自動車市場である中国だ。電気自動車(EV)の急速な普及などで比亜迪(BYD)など現地勢の販売が伸び、日系自動車メーカーはシェアを落としたが、日産の現地合弁が今年投入したEV「N7」の販売好調で潮目が変わりつつある。
ただ日産はこれまでも見通しの甘さによる販売計画の未達が常態化していた時期があり、差し迫った危機が去ったと楽観視することにはリスクもある。日産の株価はエスピノーサ氏の社長就任以降、約40%の下落となっている。11日は前日比下落で取引を開始し、その後、上昇に転じる場面もあった。

エスピノーサ氏によると、N7では従来の車づくりの考え方を根本から見直し、地場のサプライヤーから部品を調達するなどでコストを下げる一方、デザインや機能を現地のニーズに合わせることを徹底した。日産は中国では今後、プラグインハイブリッド車(PHV)「N6」、スポーツ用多目的車(SUV)のEVとPHVの投入を予定。いずれもN7と同じアプローチで開発されるという。
米国市場では、米国内で生産された車の販売が大幅に増える一方、国外生産の製品の販売は伸び悩んでいるという。意図的に通常の販売促進をしていない自動車メーカーもあるなど「やや異常な動きが見え始めている」という。
フォロワー戦略
こうした中で、エスピノーサ氏は部品調達のやり方を見直すなどで関税影響を緩和する取り組みを進めているほか、値上げに関しては「フォロワー戦略」を取り、大手競合の動きを注視して適切と判断すれば実行するとの考えを示した。
関税への対応として、トヨタ自動車は輸入米国車の販売に自社の国内販売網を活用することも選択肢になるとの考えを示した。エスピノーサ氏は米国にはいい車がたくさんあるとし、日本で販売されていない自社の車種を輸入して販売する可能性について社内で協議していることも明らかにした。
日本の道路事情を考えると具体的にはSUV「ムラーノ」や「パスファインダー」などが運転しやすいサイズだとして、有力な候補になり得るという。
日産は、18年のカルロス・ゴーン元会長の逮捕以降、不安定な経営状態が続いたが一時は業績を持ち直し、仏ルノーとの資本関係の対等化も実現した。
だが、米中出販売不振に陥り再び業績が悪化。日産は5月に経営再建計画「Re:Nissan」を発表した。国内のマザー工場と位置付けられていた追浜工場(神奈川県横須賀市)での生産停止を表明したほか、関係者によるとグローバル本社ビル(横浜市)の売却も計画している。
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--取材協力:南部真帆、岩井春翔.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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