「AI」「自動運転」「高齢化」…中国市場から目を離すと世界で負ける
Q中国でのビジネス、難しさもありながらもこれからも中国は大事な市場であり続けると思うのですが?
本間会長
今、中国のGDPは日本の皆さんにとってはあんまり愉快じゃない数字だと思うんですけれども日本のGDPの5倍の規模があるんですね。ありとあらゆるところで厳しい競争が繰り広げられ、優秀な企業が育ち、そうでない企業が没落していくサイクルが回っている。日本企業も中国市場から目を離してしまうと本当に世界で負ける可能性があると思うんですね。
パナソニックでは「チャイナコストはグローバルコスト、チャイナスピードはグローバルスピード」「中国で負ければ世界で負ける」とよく言うんですけれどもそういう観点でこの国のイノベーションを見つめることは大変大事だと思いますね。
Q中国のビジネス、これからの注目点はありますか?
本間会長
やはり生成AIの分野ですね。私たち在中外国企業にとって一つ頭が痛いのは私たちは本国のAI技術にアクセスできないんですね。従って中国のライバルがどんどんAI技術を使う中で私たちもこちらで技術を調達して自分たちをブラッシュアップしないといけないということになっています。また中国の社会全体もアメリカに負けないでAIをやるんだと、DeepSeekが出た頃から本当にその勢いが強まっているんですね。従ってこの周辺というのは非常に面白いかなと思います。
また自動車関連は電動化に続いて自動運転の分野でも中国のベンチャーが本当に大きな動きを見せていて、世界に変化をもたらすんじゃないかと私は思っています。
また弊社の場合はやはり中国の高齢者が増えるという点にとても注目しています。私は1961年生まれですが、私と同い年の人がこの国には2600万人いるんですね。従って前後4学年で1億人いるんです。今後4年に1億人ずつ高齢者が増えるっていうのがこの国の先が読める未来なんですね。60代の人は比較的自分にお金を使います。私たちは江蘇省で高齢者用の大規模住宅開発をしたんですけれども、ほぼ同じものを40ヶ所で今展開しております。そういう新しい変わり目に注目して、日本が高齢化先進国として磨いてきた製品やサービスをお届けするというのも私はひとつのあり方だと思っています。

変化の半歩先を読み、挑戦するマインドを忘れずに…「日に新た」な感覚で中国を見よ
Qビジネスパーソンとして中国と向き合うことの難しさや面白さがあったら教えてください。
本間会長
創業者の松下幸之助が大事にした言葉に「日に新た」という言葉があるんですね。「先入観を捨てて、物事を素直にとらまえないと失敗するよ」っていう意味だと私たち後輩は受け止めているんですけれども中国でビジネスをする上で私がすごく注意しているのはこの「日に新た」という感覚を忘れないことですね。
今の日本社会はとても安定していてあまり変化しない社会だと思うんですね。その日本から中国を見ると「何でそんな毎日毎日目先の変わったことを言うんだ」と思われちゃうんですけども現実に中国では毎日変化が起きる。その変化を素直にとらまえて、対策を立てていかないと生き残れないと思いますし、私たちは常に中国の変化の半歩先を読んで、挑戦するマインドを忘れないようにしないといけないなと。
私が非常に力強く思っているのは、こういうマインドは中国の人にとっては普通なんですね。生まれてこの方ずっと変化してるわけですから慣れているんです。この環境に日本人を放り込むと日本人も慣れて、先入観を持たずにどんどん新しいことに挑戦する若い日本の世代が育ってきています。そういうところに私たちはこの中国でビジネスをする、また異なる意味を見出しているんですけどね。
Qこれから中国でビジネスをしたい人、中国のことを学びたいという、特に若い人たちに何かメッセージがあればお願いします。
本間会長
「百聞は一見に如かず」という言葉があります。ぜひ中国に来て、見て、感じて、中国の変化と日本の現状を見比べたときに私たちが何か吸収すべきことはないかというのを感じていただければと思います。
今大阪‐上海、そして東京‐北京の間では日に20往復の航空便が出ていて、安いチケットだったら新幹線で東京‐大阪を往復するより安いんですよね。中国の人にとって東京や大阪に行くのはもう国内出張の感覚になりつつあると私は思います。ですからぜひ日本の人も中国出張はもう国内出張、国内旅行の延長線、という感覚で中国に来ていただければいいんじゃないかなと思います。
Q日本と中国は将来どういう関係であってほしい、と思いますか?
本間会長
遣唐使以降1500年に渡って続いてきた交流が途絶するはずがない、というのが私の感覚なんですね。ご縁があって薬師寺、唐招提寺に行かせていただいてお坊さんとお話する機会をいただいたんですけれども、薬師寺、唐招提寺っていうのは本当に約1500年前に建立された当時の姿を今日に残しているんですね。
実は中国は古いものを残すのがとても下手くそな国です。地面に埋まっていた兵馬俑以外、1000年以上前のものはほとんど残っていない。私たちが今暮らしている北京も600年以上前のものはほぼないんですね。日本人の方が古いものを大事にする、そして古いものを改善することに長けていると思うんですね。
一方で今のIT時代はちょっと日本人の保守性っていうのが悪い方に出ていて、何でもかんでも新しいものが好きっていう中国の方が向いている。そういう時間軸なんじゃないかっていうのが私の勝手な仮説なんですけれどもその両方の良いところを掛け合わせて、さらにアジアの発展、そして世界の発展に日中両国が協力し合ってできる余地は必ずあると思うんですね。
日本はこれから人口が減る難しい時代に入っていくんですね。従って日本社会のスピードをもっと上げないといけないし、日本社会のコストをもっと下げないといけない。そして我々日本企業も今と同じ製品開発のボリュームを維持しようと思ったら自然と外国の人と一緒に仕事をしないと回らないんですね。そう考えると私は中国というのは欠かせないピースなんじゃないかと思って行動しています。
Q最後にリスナーの皆様にメッセージがあればぜひお願いします。
本間会長
先入観に惑わされることなく、今日の等身大の中国に触れて、見ていただくということをしていただければ、これに勝る喜びはありません。
(音声配信でお聞きになりたい方はポッドキャスト「北京発!中国取材の現場から」で)

聞き手
JNN北京支局長 立山芽以子
JNN北京支局カメラマン 中野陽