1600億ドル(約24兆円)を運用するマニュライフ・インベストメント・マネジメントのネイサン・スフト氏は弱気派ではなく、同氏率いるチームは依然として株式にやや強気の構えを維持している。それでも米国株が最高値更新を繰り返す中で、大幅上昇した銘柄の保有を縮小し、債券を購入。長期のオプションで守りの構えを強めている。

「市場は過度に楽観的になっている」とマニュライフでマルチアセット運用の最高投資責任者(CIO)を務めるスフト氏は指摘。「4月の関税ショックによる安値から大きく反発して以来、一時的調整はほとんどなかった。多くの市場でバリュエーションは割高だ。リスク指標は年初来の低水準に落ち込んでいる」と述べた。同氏のチームは過去9カ月間に、ハイイールド債への投資を着実に縮小し、米国以外の株式にシフト、安全性の高い資産に資金を振り向けてきたという。

減速予想にもかかわらず株式とクレジット市場の相場上昇が長年にわたり続いてきた中で、どの程度ヘッジを講じるべきか、プロの投資家の多くが頭を悩ませている。人工知能(AI)を巡る熱狂、堅調な企業業績、約20年ぶりの高金利を吸収した経済が相場上昇を支えてきた。だがインフレ圧力は完全には後退しておらず、米連邦準備制度はまだ勝利宣言していない。

楽観と警戒の間で、ここ数週間に防御的な兆しが幾つか浮上している。株式オプション市場での下落リスクに備える需要の増加、現金と金への資金流入、レバレッジ型ロング上場投資信託(ETF)からの資金流出などがそうだ。米個人投資家協会(AAII)の最新調査では弱気派が強気派を上回り、バンク・オブ・アメリカ(BofA)の調査では91%が米株は割高だと回答した。

これらを総合すると、「ヘッジ付きの楽観」が浮かび上がる。投資家はリターンを追いかけるが保険を外すことはしない。ウォール街では、こうした不確実な平穏の中で相場上昇の基盤が試される可能性が意識されている。

 

15日終了週も楽観派が報われた。9月利下げ期待は依然高く、S&P500種株価指数は夏場の上昇相場を続けた。企業の資金調達も活発で、暗号資産(仮想通貨)ビットコインは最高値を更新した。世界の株式ファンドには260億ドル、債券ファンドに260億ドルの資金が流入。債券のボラティリティーを示すMOVE指数は2022年以来の水準に低下した。米株式相場のボラティリティー指標、シカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)も年初来最低付近で推移した。

ナティクシス・インベストメント・マネジャーズ・ソリューションズのストラテジスト、ギャレット・メルソン氏は、通常のほぼ2倍の頻度で資産配分を調整しており、週によっては数日ごとに見直してエクスポージャーを微調整している。トランプ政権の政策の不安定さに加え、市場の見方が急速に変化していることが背景にあるという。

「方向性としては、状況がここから徐々に冷めていき最終的にはコンセンサスがやや強気になり過ぎることになろう」と同氏は指摘。過熱感から5-6%の一時的調整はあり得るが、大幅な下落局面は差し迫っていないとみる。金や商品より米国債の方が信頼できるヘッジだとも述べた。同氏のチームは、クレジットリスクを削減し、米国債を追加した一方、AIブームの恩恵をまだ受けているとみるテクノロジーを多少オーバーウエートとしている。

原題:Wall Street Wrestles With Hedging Conundrum as Valuations Swell(抜粋)

--取材協力:Athanasios Psarofagis.

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