オーストラリア政府は次期フリゲート艦の建造について、日本の提案を採用し、三菱重工業を発注先に選定した。マールズ副首相兼国防相が5日、記者団に明らかにした。

豪州の次期フリゲート艦を三菱重が受注すると決まったことで、両国間の防衛面での戦略的な協力関係が一層強化される。

「もがみ型」護衛艦をベースとする日本の提案が、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズに競り勝った。発注の規模は70億-100億豪ドル(約6700億-9500億円)。

今回の決定は、日本が世界の防衛装備品輸出市場に本格参入する上で重要な節目となる。これまで日本にとって完成品の輸出契約は、2020年にフィリピンへの警戒管制レーダー提供に関する合意のみだった。近年は、第二次世界大戦後の反軍国主義的な立場から規制してきた防衛装備品の輸出を段階的に緩和し、産業の成長加速に取り組んできた。

中国の軍事力拡大の懸念の高まりに対し、オーストラリアと日本は地域の安全保障で連携強化を図っている。また、関税を巡る対立が続く中、共通の同盟国である米国との関係に対する不安も根底にある。

防衛産業の連携を推進する国際安全保障産業協会(ISICジャパン)のプレジデント、ジェームズ・アンジェラス氏は、「これは日本の防衛装備品輸出の可能性を示す大きな実証例だ」と語った。

日本は、比較的小規模で分散した防衛産業基盤を強化する手段として、輸出に狙いを定めている。三菱重は同業界最大手だが、競合他社と同様、防衛事業のほとんどを自衛隊への供給に依存している。

林芳正官房長官は同日の会見で、日豪間で11隻のフリゲート艦を共同開発、生産すると発表した。日本の高い技術力への信頼や自衛隊と豪軍の相互運用性の重要性が評価されたと発言。日豪間の「安全保障協力をさらなる高みに引き上げる大きな一歩となる」と語った。最終的な契約の締結は来年初めを見込んでいる。

三菱重と川崎重工業は16年、オーストラリアの次期潜水艦12隻の建造事業でフランスのDCNSグループに競り負けた経緯がある。当時は中国政府が日本の軍事力強化の懸念から、豪州に対し、南シナ海の問題に関わらないよう求めていた。

オールジャパン態勢

中谷元防衛相は同日の記者会見で、契約締結に向けた課題として最終的な価格決定、メンテナンスや現地での生産体制の在り方などを指摘。その上で、「官民一体、オールジャパンの態勢でプロジェクトの成功に向けて取り組みたい」と語った。

発表を受けて、三菱重の株価は反発。一時前日比5.2%高の3729円と、ブルームバーグにデータが残る1974年以来の日中高値となった。同社は5日に発表した声明で、日本政府や護衛艦建造に関わる各企業と連携を取りながら、オーストラリア政府の選定プロセスに対応し、最終選定に向けて良い提案ができるよう取り組むと述べた。西尾浩最高財務責任者は、納入が実現すれば2026年度から27年度にかけて増収につながると、同日の決算会見で話した。

みずほ証券の伊藤辰彦シニアアナリストは正式発表前の一部報道段階での5日付リポートで「印象はポジティブ」とコメント。日本製の防衛装備品での本格的な輸出となり、日系防衛関連企業が輸出案件を今後手掛けやすくなることが期待できると考えられるため「わが国の防衛産業にとって新たな幕開けと呼ぶにふさわしい案件とみる」と評価した。

今後は建造遂行能力や得られる収益性に焦点が当たるとした上で、グローバルの防衛産業は収益性が比較的高く、プロジェクトを適切に遂行できれば三菱重への利益貢献が期待されるとした。

マールズ副首相によれば、もがみ型のフリゲート艦はステルス性に優れ、長距離ミサイルの発射能力を持つ垂直発射装置32基を備えている。従来よりはるかに少ない乗員で運用できる強みもある。

次期フリゲート艦は最初の3隻を日本で建造し、29年に最初の納入、30年に運用開始を予定する。

マールズ副首相はキャンベラで記者団に対し、「豪州と日本が締結する防衛産業の合意としては、明らかに最大となるだろう。両国の2国間関係にとって非常に重要な節目になる」と語った。

オーストラリアは、太平洋とインド洋に囲まれる開かれた貿易国家であり、輸出入を安全なシーレーン(海上交通路)に依存している。次期フリゲート艦を巡る今回の動きは、中国の勢力拡大に伴い、ますます緊張が高まる地域情勢を反映したものと言える。

原題:Japan’s Defense Ambitions Boosted by Australia Navy Frigate Deal(抜粋)

(三菱重の会見での幹部発言を追加して更新しました)

--取材協力:堀江政嗣、高橋ニコラス.

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