マサチューセッツ工科大学(MIT)の金融学教授で人工知能(AI)の第一人者でもあるアンドリュー・ロー氏は1年前、バイオテクノロジー銘柄モデルナについてChatGPTに意見を求めた。世界的な新型コロナウイルス流行期に急上昇していたモデルナ株についてAIが出した助言は「売れ」だった。ロー氏は売却しなかったが、株価はその後大きく下落した。

今では、AIが投資判断だけでなく、資産運用やリスク管理のほか、投資戦略のカスタマイズに加え、顧客の最善の利益のために行動できるようになると考えている。この受託者責任は、金融業界における最も重い責務だ。

ロー氏は大規模言語モデル(LLM)が5年以内に、顧客に代わって投資判断を実際に下す技術的能力を持つようになると予測している。

60歳代半ばのロー氏は、長年にわたり金融とテクノロジーの両分野をつないできた人物だ。機械学習をヘルスケアや資産運用に応用するQLSアドバイザーズの共同創業者であり、主流と見なされていなかった時代のクオンツ投資の分野でも先駆的な役割を果たした。

生成AIには欠点があることを認めつつも、複雑な市場の動きを解析し、長期的リスクを評価し、これまで人間のアドバイザーしか得られなかったような信頼を獲得する力が、急速に備わりつつあるとロー氏はみている。

「いわゆるエージェントAIという形になるかもしれない。われわれに代わって働き、自動的に意思決定を行ってくれるAIエージェントだ」とロー氏はインタビューで語った。「5年以内に、人間とAIの関わり方において革命的な変化が訪れると私は信じている」という。

アンドルー・ロー氏

ChatGPTのようなツールの利用が主にデータ収集や分析といったジュニアレベルの業務にとどまっているウォール街では、このアイデアは急進的に聞こえるかもしれない。しかしロー氏は、適切な規制の枠組みが整えば、AIは「勤勉だが融通の利かない研究者」から進化し、「受託者責任」を果たす存在になり得ると考えている。

課題は、重要な意思決定における信頼性だ。金融の世界が要求する一貫性と透明性を持って機能するようにAIモデルを訓練できるのかという問題だ。

ロー氏は、「今後は、ある状況ではLLMを信頼できるが、別の状況では信頼すべきでないという判断を可能にするツールが登場するようになるだろう」と話す。

「金融サービス業界では、こうしたツールが本格的に活用される前に、さらに多層的な保護の仕組みを構築する必要がある。だが、それはきっと実現すると思う」と語った。

ロー氏は、次世代のAIには市場分析以上の能力が求められると考えている。アドバイザー業務に不可欠な「持続的な信頼」を築くために、AIは人間を感情的・社会的に理解する力を備える必要があるという。

AIが銘柄を選ぶという発想は目新しいものではない。実際、昨年にはチャットボットを活用した上場投資信託(ETF)が登場し、ウォーレン・バフェットなど著名投資家の知見を活用するとうたわれた。

ただし、既存システムはあくまでルールベースで柔軟性に欠ける。

ロー氏が目指しているのは、それとは異なる適応型のAIだ。単に答えを出すだけでなく、人間のフィードバックを取り込みながら学び、クライアントとの関係性を築く能力を持つモデル。それがすなわち「受託者責任」を果たすエージェントAIだ。

だからこそロー氏は、慎重なアプローチも支持している。数十年に一度の創造的破壊をもたらす可能性のある金融ツールに関して、ウォール街が慎重姿勢で臨むことは正しいと論じる。

それでもロー氏は、人間とAIの協業に強い期待を寄せる。

人間は直感、経験、関係をもたらし、AIはスピード、記憶力、パターン認識に優れる。両社が組み合わされば、どちらか一方では生み出せないような金融戦略が実現できるという。

将来のAIは単に銘柄選びで人間に勝るだけではなく、信頼・リスク・責任といった概念を金融の意思決定にどう組み込むかという枠組みを再定義する可能性を持つ。それがロー氏の描く未来だ。

原題:MIT’s Andrew Lo Sees AI Ready to Run Your Money in Five Years(抜粋)

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