日本と米国の通商交渉の合意は投資家にとってうれしいサプライズとなり、政治の不透明感に覆われた日本の株式、金融市場にとっては歓迎すべきニュースだとストラテジストやアナリストは分析している。

トランプ米大統領は22日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、「われわれは日本との大規模なディール(取引)を完了した。恐らくこれまでで最大のディールだ」と投稿。日本からの輸入品に15%の関税を課し、日本が米国に5500億ドル(約80兆円)を投資することも明かした。関税率は事前に公表されていた25%から緩和された格好だ。

一方、20日の参院選で自民、公明の連立与党は大敗した。衆院に続き参院でも過半数割れとなった後も石破茂首相は続投の意思を示していたが、党内から不満の声も上がる中、23日の読売新聞は石破首相が日米関税交渉の進展を見極め、近く進退を判断すると報道。首相交代を巡る思惑も相場に影響を及ぼす可能性がある。

【市場関係者の見方】

三菱UFJアセットマネジメントの石金淳エグゼクティブファンドマネジャー

  • 特に自動車関税の引き下げは日本株にとってポジティブサプライズ。自動車株は悪材料出尽くしで今後は上昇していくだろう。
  • 自動車以外のセクターについては税率が下がったとはいえ、これから新たに関税がかかることには変わりはなく、業績への影響もまだ織り込まれていない部分がある
  • 物価高や実質賃金のマイナス傾向など日本経済の状況も良いとは言えず、今後は日本株全体で見ると一本調子の上昇とはいかないのではないか

ソニーフィナンシャルグループの渡辺浩志金融市場調査部長

  • 15%の関税であれば、日本経済にとって吸収・対応可能なレベルだろう
  • 5500億ドルの投資は日本からの資本流出という話になり、長期的には円安方向に効いてくるだろう
  • 金利については、リスクオンによる部分と石破政権の交代が見込まれる中、財政悪化懸念による悪い金利の上昇という両面がある

岡三証券の松本史雄チーフストラテジスト

  • 米関税15%が決定したことで日本企業の業績を巡る不透明感がなくなり、関税については悪材料出尽くしになる
  • 自動車に対する15%関税報道は特にサプライズで、株価にポジティブ
  • マクロ的な観点からは、日本から米国への輸出金額が年間約21兆円で、もし関税分を全て企業側が負担したと仮定した場合は25%が約5.3兆円、15%は約3.2兆円に相当する
  • 実際の個別企業の関税対応は違うため、一概には言えないが、全て企業負担で関税が15%へと下がれば、負担額は従来の想定より約3.1兆円減る計算

オルタス・アドバイザーズの日本株戦略責任者、アンドリュー・ジャクソン氏

  • 石破首相と自民党にとってまさに必要なタイミングでの大きな好材料
  • 市場は20%の関税率を織り込んでいたため、15%は予想以上の好結果。これが反映される自動車セクターはかなり空売りが積み上がっていたため、大きな踏み上げ局面が迫っていた状況だった
  • 米国にとって日本を関税で過度に傷つけることは、太平洋地域での日本の重要性を考慮すれば決して利益にならない。中国に対抗するには日本経済を壊してポピュリズムに走らせるのではなく、強固で健全な日本が必要だ

インタッチ・キャピタル・マーケッツのシニア為替アナリスト、ショーン・キャロウ氏

  • 日米合意への期待が比較的低かったため、日本株には一定の安心感がある
  • 表向きの相互関税率15%は、今月前半に書簡で示された25%から大幅な引き下げとなった
  • 日本にとってのポジティブなのはトランプ大統領が合意を宣言できた点だ
  • 5500億ドルの米国への直接投資については、市場が短期的に材料視すべきではない幻の数字のように聞こえる
  • ドル・円と日本株は順相関を維持し、当面は小幅な上昇傾向が続くだろう

オーストラリア・コモンウェルス銀行のストラテジスト、キャロル・コング氏

  • 日米合意の発表後に円が一時的に上昇したことは、市場が15%の関税率は日本にとって良い結果と捉えたことを示している
  • 円は最近、貿易交渉と財政に対する懸念という逆風を受けていたが、合意を受けて市場の注目は日本の財政見通しに移る可能性が高く、国債利回りと円安進行がリスクになる
  • 日本は米国と最初に貿易交渉を開始した国であり、市場は日米合意の可能性を一部織り込んでいる可能性がある。日本の財政支出拡大への懸念も、円高を抑制する要因だ

(市場関係者のコメントを追記)

--取材協力:佐野日出之、堤健太郎、長谷川敏郎.

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