石破茂首相(自民党総裁)は21日午後、大敗した参院選の結果を踏まえた記者会見で、日本は「政治には一刻の停滞も許されない」と述べ、続投を正式表明した。ただ、党内からの退陣要求が高まれば、窮地に追い込まれる可能性もある。

石破茂首相

石破氏は記者会見で、与党が参院で過半数(125議席)割れしたことを受け、「謙虚に真摯(しんし)に受け止めなければならない」と述べた。米国の関税措置、物価高、自然災害や安全保障環境などの課題を挙げ、「今最も大切なことは国政に停滞を招かないということだ」と強調。こうした問題の解決に道筋をつけるよう全力で対応する考えを示した。

衆院に続き参院でも少数与党となったことで石破首相の求心力は低下し、党内には首相の責任を問う声がくすぶる。首相は政権存続について「期限を考えているわけではない」と発言。党内から退陣を求める声が上がった場合への対応を問われ、「推移を見極めながら、その都度、その都度、適切な判断をしていく」と述べるにとどめた。

一方で、消費減税などを主張する野党側の影響力拡大で譲歩を余儀なくされる可能性もある。石破首相は、物価高対策について「党派を超えた協議を呼び掛け、結論を得たい」とするが、政権運営はさらに困難となり、財政拡大への懸念が市場で広がる可能性もある。

立憲民主党の野田佳彦代表は21日、消費減税に向け、軌道修正するならば「議論の余地があった」が、「それがないということは反省がない」と首相の姿勢を批判した。

21日の東京外国為替市場の円相場はドルに対し一時ニューヨーク時間の18日終値比0.7%高の1ドル=147円78銭まで上昇。午後8時15分時点では147円台後半まで戻している。

トランプ関税

米国の関税措置を巡っては、8月1日に日本に対する25%関税の賦課期限が迫る。ヤマ場を迎える対米交渉が、政権維持の手段と化している。

赤沢亮正経済再生担当相は米側との8回目の交渉を行うため、21日から訪米する。首相は自らも「できる限り早期にトランプ大統領と直接話し、目に見える成果を出したい」と意欲を示した。成果を上げられないまま高い関税率が課された場合の赤沢氏や自身の進退については「今、たられば、の議論をするつもりはない」と述べるにとどめた。

法政大学の河野有理教授は、与党過半数割れでも石破首相が続投することについて「従来であれば考えられない」としつつ、米国の25%関税発動期限である8月1日をめどに日米が何らかの合意を確認することを「花道」に退陣することが「一番、自民党内の政治としては落としどころだ」と指摘した。ただ、首相が本当に退陣するつもりがないのであれば、その期限は意味をなさないとした。

NHKの開票速報によると、自民と公明の連立党は参院全体の過半数維持に必要だった50議席に届かなかった。物価高騰への不満の高まりから与党の支持離れを招き、消費税の減税などを掲げた野党に追い風が吹いた。国民民主党と参政党は議席を二ケタ台に増やす大躍進で、日本維新の会は1議席を上積みした。立民は選挙前の議席を維持し、野党第1党にとどまった。

 

政治危機

過去に参院で過半数を失った自民党の首相3人は2カ月以内に退陣に追い込まれている。最近では2007年の参院選で与党が過半数割れとなった当時の安倍晋三首相は続投し、内閣改造で局面打開を図ったが、選挙の約2カ月後に辞任を表明した。石破首相は当時、党の会合で「具体的に何を反省し、何をどう改めるのか、はっきり言ってほしい」と安倍氏を突き上げた1人だ。

会見でその発言について問われ、「私自身、強く記憶している」と発言。18年がたち、自らが厳しい立場に立たされている首相は「自民党が支持を得られない原因を早急に分析し、教訓を得たい」と述べた。

ジャパン・フォーサイトの創設者、トビアス・ハリス氏は、石破政権の終焉(しゅうえん)が近いと見ている。首相退陣論が数日中に党内で十分な支持を集めれば、引きずりおろす動きに発展するとの見方を示す。野党も石破政権への連立参加を望んでおらず、「もはや政治危機だ」と指摘した。

ハリス氏によれば、次のリーダーに求められる資質としては保守票や若年層の支持を集め、トランプ氏と渡り合い、選挙で与党の過半数を回復できる政治力などを挙げたが、すべてを満たす有力者は少ないとしている。

石破首相が辞任すれば、昨年の総裁選に立候補した高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農相に加え、林芳正官房長官、加藤勝信財務相、小林鷹之元経済安全保障担当相のほか、岸田文雄前首相らも後継に名乗りを上げる可能性がある。

(識者のコメントなどを追加し、更新しました)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.