参院選は20日投開票が行われ、自民・公明の連立与党は非改選を含めた参院全体での過半数(125議席)を割り込んだ。石破茂首相は続投の意向を表明したが、政権基盤はさらに弱体化する。与党大敗で財政悪化懸念が広がり、市場が不安定化する恐れもある。

自民党本部を離れる石破茂首相

NHKは開票速報で、与党は選挙前の66議席から大幅に減らし、参院全体での過半数維持に必要な50議席を確保できなかったと報じた。21日午前8時時点で与党は自民39、公明8の計47議席。立憲民主党は22議席と改選議席に並び、野党第一党を維持した。国民民主党は改選4議席から17議席、参政党が同1議席から14議席と大幅に増やした。日本維新の会は改選を上回る7議席。

石破首相は20日午後10時半ごろ、テレビ朝日の番組で「比較第1党の議席を頂戴するということの重さもよく自覚をしなければならない」との考えも示した。こうした発言は首相を続投する意思と受け止めていいかと問われ、「結構です」と語った。

また、「人口減少、経済の構造を変えていく安全保障、地方創生、防災、そういうことにきちんとした道筋をつけていくということは国家に対する責任だ」と発言。米国による25%の関税発動期限を8月1日に控え、国益実現のために全身全霊を尽くすとも述べた。赤沢亮正経済再生担当相は21日に訪米し、8回目の関税交渉に臨む。内閣官房が同日、発表した。24日に帰国する予定。

今回の選挙で消費税減税を主張した野党各党が議席を伸ばし、慎重だった自民は大きく議席を減らした。野党の影響力拡大で、予算や税制を含めた政策決定時に妥協を迫られる事態も想定される。衆院に加え参院でも与党が過半数割れすることで、今後の政局は極めて不安定になる。首相は続投に意欲を示したが、党内から首相の責任を問う声が上がる可能性がある。

債券安・円安圧力

選挙前から報じられていた過半数割れが現実になり、財政悪化懸念による債券安・円安圧力が今後、強まることもあり得る。21日朝の外国為替市場で、円はドルに対し上昇。一時ニューヨーク時間18日の取引終値比0.7%高の1ドル=147円79銭を付けた。

ナショナル・オーストラリア銀行の為替ストラテジスト、ロドリゴ・カトリル氏は、石破首相が野党の協力を一部得ながら政権運営を担うという政治的に不透明感の強い局面になると予想。「不確実性は通常、少なくとも初期段階では、円の支援材料となる傾向がある」との見解を示した。その上で、「選挙結果は全般的に日本資産にとって好ましいものでなく、円が上昇する局面では下落方向に賭ける」とした。

日本は祝日のため債券と株式市場は休場。21日早朝のシカゴ日経平均先物は、18日の大阪取引所の通常取引終値と比べもみ合う展開となっている。

みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは20日、 祝日明けの株と債券市場の反応について、政権の不安定化でリスクオフの株安、野党の影響力拡大による財政リスクで超長期を中心に金利に上昇圧力がかかるだろうと指摘した。石破首相が本当に続投するのであれば、変動幅は押さえられそうだとの見方も示した。

自民党の森山裕幹事長

野党協力

自民の森山裕幹事長は20日夜、選挙結果について「責任は非常に感じている」としつつ、自身の進退については石破首相と「よく相談をしたい」と述べるにとどめた。小野寺五典政調会長も「大変厳しい結果になる」との見通しを示した。今後の政権運営への影響については議席確定後、「分析をし、党内でしっかり議論していきたい」と語った。いずれもNHKの番組で発言した。

石破首相が続投した場合、国会運営では連立の枠組み拡大を含め、従来以上に野党の協力が必要となる。ただ、立民の野田佳彦代表はテレビ東京の番組で、明らかに民意は石破内閣に不信任を突きつけたと指摘した。国民の玉木雄一郎代表はテレビ朝日で「石破政権と組むことはあり得ない」と述べ、連立の可能性を否定した。

自公が参院で過半数割れするのは2013年の選挙以降で初めて。与党が衆参両院で少数となるのは1994年4月発足の羽田孜内閣以来となる。羽田首相はわずか2カ月で政権運営に行き詰まり、退陣に追い込まれた。

神奈川大学の大川千寿教授(政治学)は、石破氏にとって、首相を続けることが極めて困難になるとの見方を示した。現段階で誰が引き継ぐかという問題になると、火中の栗を拾うようなものだと指摘。誰もその不安定な立場に進んで就こうとしない可能性も十分あると述べた。

総務省が発表した20日午後7時30分時点の投票率は全国平均で29.93%と前回(2022年)を0.65%下回った。一方、19日まで行われた期日前投票では2618万人超が投票を済ませた。過去最多で有権者の約25%に当たる。

前回の最終的な投票率は52.05%と4回連続で55%を下回った。与党が過半数割れした第1次安倍晋三政権下の07年の参院選は58.64%だった。

経済界の受け止め

自民・公明両党の過半数割れを受けて経団連の筒井義信会長は、「与党に対する厳しい民意の表れと受け止めている」とのコメントを発表。喫緊の課題や構造的な問題が山積しており、「安定した政治の態勢が確立されることを強く期待したい」と述べた。

経済同友会の新浪剛史代表幹事は、「物価高や米国の関税措置など足元の課題に対し実効性のある経済政策が速やかに提示されず、国民の政権運営への不安が高まったことの表れだ」と指摘。国政の遅滞は許されないとし、特に米国との関税交渉を速やかにまとめるよう求めた。

(開票状況や財界のコメント、市場の動向を更新しました)

--取材協力:岩井春翔、グラス美亜、長谷川敏郎、村上さくら.

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