トランプ米大統領の政治キャリアはワシントンのエリート層や前任者の健康問題、ウォール街の富への有権者の懸念を追い風としてきたが、ここ1週間で歯車が狂い始めた。

性犯罪で起訴され勾留中に死亡したジェフリー・エプスタイン元被告を巡る騒動から距離を取ろうとしたトランプ大統領の試みは、うまくはいかなかった。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)はトランプ氏がエプスタイン元被告に露骨な内容の誕生日の手紙をかつて送ったと報道。トランプ氏はこれを否定している。

また、ホワイトハウスは17日、トランプ大統領が慢性静脈不全と診断されたと公表。さらに、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を巡ってもトランプ氏の態度が二転三転し、一時は解任を試みる可能性を議員らに示唆したが、市場の反応も懸念され姿勢を和らげた。

英国訪問を今週控えるトランプ大統領はこれまでに比べてややもろさを見せている。

トランプ米大統領

トランプ氏にとって、先週は本来なら「勝利の週」として活用したいところだった。堅調な経済指標やステーブルコイン規制法案の署名、積極的な関税政策の推進などが続いていたためだ。

しかし結果としては、政敵や官僚組織、外国政府までも自らの意のままに動かしてきたかのように時折見えたトランプ大統領のよろいに突如として幾つかの穴が開くことになった。

先週末には、トランプ氏が腹を立ててSNSに投稿。ルパート・マードック氏やWSJ発行元のダウ・ジョーンズ、その親会社ニューズ・コーポレーションを名誉毀損で提訴した。

WSJは17日、トランプ氏がエプスタイン元被告の50歳の誕生日を機にまとめられた本に載せる手紙を準備していたと報道。これに対し、トランプ氏は手紙について「偽物」だと反論し、「虚偽で悪意に満ちた中傷だ」と主張した。

だが、今回の報道はトランプ氏の支持者の間でくすぶっていた火に油を注ぐことになった。司法省はエプスタイン元被告が政治家を脅したり、顧客リストを保持したりした証拠はなかったと先に説明していた。

真相解明を求める多くのトランプ大統領支持者は、元被告の件をエリート層が形成する「ディープステート(闇の政府)」の存在を裏付ける決定的証拠だとみており、トランプ氏の側近の一部もこの点に関して重大かつ新たな詳細を公開すると約束していた。このため、司法省の見解はこれに真っ向から矛盾する形となった。

支持いらず

大統領支持者と米連邦捜査局(FBI)のパテル長官、ボンジーノ副長官はボンディ司法長官と対立しているとされる。トランプ氏自身もこの問題の火消しに苦心している。

トランプ大統領は今月に入り、「まだジェフリー・エプスタインの話をしてるのか」と記者に対して語気を強めた。今週には、自らの支持層からの疑問を退け、エプスタイン元被告に関して懸念を示す人々を弱虫だと表現。「彼らの支持はもういらない」と述べた。

陰謀論などをあおるエプスタイン元被告の問題は、トランプ氏にとってかつて有力な政治カードだった。だが今や、自らの政権が情報を隠していると疑う支持者からの反発を招く事態となっている。

WSJの報道後、トランプ氏は素早く動いた。エプスタイン元被告の起訴に関する大陪審の証言について、司法省が公開請求することを承認したが、支持者が求める全面公開には至っていない。

どこでも勝利

トランプ大統領はステーブルコイン規制法案の署名式で、「われわれはどこでも勝っている。比べ物にならない。これを維持していく」と述べた。

減税延長や行政機関の縮小、移民対策への財源確保など、トランプ政権は公約とする政策を前進させている。ただ、共和党内ではこれらが大きな政治的リスクを伴い、トランプ氏自身が成果の売り込みに注力する必要があるとの認識がある。

米民主党は富裕層にプラスとなる減税などを材料に、トランプ政権の経済政策に対する批判を強めている。

次の関税措置は8月1日に予定されている。景気やサプライチェーンへの悪影響、消費者への新たな負担増といったエコノミストの警告にもかかわらず、トランプ氏は強気の姿勢を崩していない。

原題:Trump’s Ambitions Collide With Epstein, Fed and Health Concerns(抜粋)

--取材協力:Catherine Lucey、Nancy Cook、Jennifer A Dlouhy.

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