世界のコンビニエンスストア好きに朗報だ。「完璧なたまごサンド」はひとまず安泰だ。

「セブン-イレブン」を展開しているセブン&アイ・ホールディングスに対し、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールが仕掛けた約6兆7700億円での買収提案に多くの日本人が注目していた。

コンビニファンが懸念していたのは、外国企業が株主価値の向上を追求するあまり、日本のコンビニ文化という世界的に高く評価されている顧客体験を壊してしまうのではないかということだった。

クシュタールは日本時間17日朝、「誠実で建設的な協議」ができなかったため買収案を撤回したとする異例なほど手厳しい詳細な書簡を発表。その文面からは、当初から感じられた特権意識がにじみ出ている。あたかも棚から商品を手に取るように日本のライバル企業を買収できるとでも考えていたかのようだ。

もっと準備が必要だったはずだ。セブン-イレブンは米国発祥だが、日本で最も愛されているブランドの一つであり、災害時のインフラとしても重要な役割を担っている。

クシュタールが日本の大企業を買収するには準備不足だったことは、以下のようなコメントからも明らかだ。

会議は、貴社のアドバイザーが表現したように、準備されたものを「読み上げた」だけのものでした。セブンイレブンチームの一部のメンバーの方には建設的に対応いただき、感謝いたしましたが、最終的に、この会議においては新たな情報をほとんど得ることはできませんでした。

東京での会議も同様でした。会議は予定されていた時間の約半分の時間で閉会となり、台本を読み上げただけのものでした。

日本に多少なりともなじみがあれば、「読み上げ」に終始し、新たな情報が得られにくい、形式ばったミーティングがこの国では決して珍しくないと知っているはずだ。良くも悪くも、それが日本だ。

そうしたことを理解せず、最初からつまずいたクシュタールが、セブン&アイが利益の半分以上を今なお国内で稼ぐ中で、セブン-イレブンの良き運営会社となれたとは思えない。

今回の買収頓挫について、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)改革が後退したとか、失望を招くとか、過去への逆戻りといった論調が数多く出てくるだろう。だが、それらは無視して問題ない。

改革は着実に進んでおり、日本の企業社会はこれまで以上に開かれている。政府の介入や「系列」による囲い込みがあったわけではない。ただ単に、良くない買収案だったというだけで、セブン&アイが断ったのではなく、クシュタールが一方的に手を引いたのだ。

興味深いことに、セブン&アイが北米事業運営会社への出資を受け入れる代わりに、クシュタールへの出資を求めたことも明らかになった。

クシュタールはこの対案を「統合事業の運営の見通しを損なう」として退けた。つまり、われわれはあなたを買えるが、あなたはわれわれを買えないというロジックだ。果たして、囲い込みをしていたのはどちらなのか。

正式提案に至らなかった1株当たり2600円という買収提示額は、買収交渉の報道が最初に出た数カ月前の株価に対してわずか17%の上乗せに過ぎなかった。

買収規模はクシュタールの時価総額に匹敵する水準で、膨大な借り入れが必要となる案件だった。また、日本の独占禁止法当局もしくは米国の反トラスト法当局によって却下される可能性も常にあった。

セブン&アイのより冷静な対応からは、同社がすでに次のステップを見据えていることがうかがえる。この1年にわたる混乱の結果、経営陣の大幅な刷新が行われた。

その効果はまだ不透明だ。ただ、コンビニ事業を市場のトップに育てた井阪隆一氏の社長退任は痛手だ。今年5月に社長に就任したスティーブン・デイカス氏は日本人の母を持つ。父親が米セブン-レブン加盟店のオーナーで、10代の頃に父のコンビニを手伝っていたという経歴の持ち主だ。業界への理解は深い。

デイカス氏は今、一息ついている場合ではない。フランチャイズ店のオーナーのように攻勢に出るべき時だ。セブン&アイは、クシュタールが買収に動いた背景にある株価低迷や資本効率の悪さという課題に真正面から取り組まなければならない。

セブン&アイは依然としてアクティビスト(物言う株主)の標的であり、17日に株価が10%近く下落したことで、新たな動きが出てくる可能性もある。

クシュタールの提示額を超える株価を実現することが、デイカス氏の最優先課題だ。そしてもちろん、あの「たまごサンド」のクオリティーも維持しなければならない。

関連コラム:

  • 【コラム】セブン&アイは時間浪費、コンビニは迅速さ命-リーディー
  • 【コラム】セブン&アイと伊藤忠、M&A巡る意外な連帯-リーディー
  • 【コラム】7&i再編に説得力なし、独禁法も買い手に有利-ヒューズ
  • 【コラム】7-イレブンの価値、株主至上主義で測れず-リーディー

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Couche-Tard Got Seven & i Wrong From the Start: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.