英ウィンブルドンのセンターコートは毎年夏の2週間、世界最高峰の選手たちがプレーするテニス界で最も格式が高い舞台だ。しかし、観戦できる最も高額なチケットを保有しているのに、会場に足を運ぶことさえしない人もいる。

その理由は、5年間有効のVIP席の権利が極めて高収益な投資対象となっているからだ。センターコートまたはナンバー1コートでの観戦席を確保できるこの権利の利用者の中には、転売して多額の利益を得る人も多く、チケットというより資産として扱われている。

ウィンブルドンのセンターコート

2026-30年の期間を対象とするセンターコートの投資家向けチケットは、分割払いの最終が済んだ状態で20万ポンド(約3900万円)超で売買されている。

昨年売り出された時は11万6000ポンドだったため、約75%の利益になる。市場仲介業者ダウゲート・キャピタルによると、米国からの需要急増が値上がりの背景にある。

このチケットが裕福なテニスファンに保証するのは、最高の観戦席とラウンジやレストランなどへのVIPアクセスだ。保有者は試合当日に観戦できない場合にはその日のチケットを転売することができる。転売可能なのは、ウィンブルドンでこれが唯一だ。

しかし近年、観戦目的とは無関係に利益目的で購入する投資家が増えている。

富裕層向けコンシェルジュサービス、テン・ライフスタイル・グループのアレックス・チートル最高経営責任者(CEO)は「ウィンブルドンはテニスの聖地で世界中からテニスファンがやってくるが、特に米国からが多い」と語る。

ウィンブルドンのこの制度は1920年に始まり、当時調達された10万ポンドはセンターコート建設費に充てられた。以来、センターコートおよび準センターコートであるナンバー1コートに可動式屋根を設置する費用や、過去6年間で新たに12面のコートを整備する費用など、多岐にわたる施設整備を支えてきた。

 

ウィンブルドン大会を運営するオール・イングランド・ローン・テニス・クラブ(AELTC)で財務担当アソシエートディレクターを務めるフィオナ・カニング氏は、「非常に重要な資金源だ」と強調する。

75%の利益が出ている26-30年チケットは初回払いが昨年5月17日。以降のFTSE100種株価指数の上昇率は4%未満、S&P500種株価指数は17%にとどまっており、同チケットのリターンの高さは際立つ。

ダウゲート・キャピタルのトレーディング責任者、ティム・ウェッブ氏によると、ある保有者は最初の2回分の支払いを済ませた上で16万ポンドで転売し、121%の利益を得た。買い手は残る支払い分4万3500ポンドを負担することになり、総額で20万ポンド超の支出となる。

同氏は「ウィンブルドンに来て観戦したいという海外の購入希望者は本当に多い」と話す。

一方、ロンドン在住の建築のプロであるフランソワ氏のように、100%転売目的のVIPチケット保有者もいる。同氏は昨年8月、21-25年有効のセンターコートチケット2席分を8万4000ポンドで購入。氏名を公にしたくないとの希望で名字が非公開の同氏は、1回の大会分のチケット転売で1万5000ポンドの利益を見込んでいる。

チケット交換プラットフォーム、グリーン・アンド・パープルの創業者、ナターシャ・バティア氏は購入者について、熱心なテニスファンから「最大価値をチケットから引き出そうとする人たち」までさまざまだと話した。

原題:Wimbledon Investors Turn 75% Profit Trading Access to VIP Seats(抜粋)

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