(ブルームバーグ):京セラが26日に開く定時株主総会で、山口悟郎会長と谷本秀夫社長が再任されるか微妙な情勢となっている。業績不振が続く中、香港の物言う株主(アクティビスト)、オアシス・マネジメントが取締役選任案に反対を表明。両氏への賛成率は近年の総会でも低迷しており、株主の反発が広がれば厳しい判断が下される可能性もある。
京セラ株を長年保有するオアシスは今総会に向け、「より『強い』京セラ」と題するサイトで同社の経営改善を訴える。資本効率の向上や株主還元の拡大など日本企業が過去10年間で進めてきた企業統治(コーポレートガバナンス)強化の流れに京セラが取り残されていると指摘、一部事業からの撤退や将来性のない分野での研究開発中止、今後4年で計1兆円の自社株買いなどを求め、「変革に消極的」だとする山口氏と谷本氏の選任に反対する。
実際、京セラの業績は低迷が続く。前期(2025年3月期)の営業利益は前の期比71%減の273億円と振るわず、リーマンショック直後の09年3月期(434億円)も下回った。売上高がすべての事業領域でほぼ横ばいだった一方、生産設備の稼働率低下や半導体部品有機材料事業における減損損失などで3期連続減益となった。
両社の因縁は10年前にさかのぼる。オアシスは15年、京セラに保有するKDDI株を売却し、株主還元に回すべきなどとする主張を展開した。当時は、創業者である故稲盛和夫氏が、名誉会長に就いていた。稲盛氏はリターンを求める投資家の考えも理解できるとした上で、従業員の雇用を守るためには資金面の余裕が必要で「わがままな要求に対しては毅然(きぜん)として言わないといけない」と反論。売却はすぐに実現せず、その後オアシスは表だったキャンペーンを実施していなかった。
その稲盛氏は22年に死去し、京セラは昨年になってKDDI株の保有を段階的に縮減する方針を公表した。先月には売上高で2000億円程度のノンコア事業見直しや今後4年間で計4000億円規模の自社株買いなどの計画も示した。しかしオアシスは「本質的な改革からは程遠い内容」と批判しており、真っ向から対立する。
2年に1度
オアシスは京セラの過度な多角化経営や、稲盛氏が設立に関わったKDDIなど政策保有株がいまだに多いことなどを批判。自己資本利益率(ROE)の低さも問題視する。オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者は取材に対し、現在まで京セラ株を持ち続け、最近買い増したことを明らかにした。現在の保有比率は開示していないため5%未満とみられる。
京セラの広報担当者は、オアシスを含むすべての株主の意見を真摯(しんし)に受け止め、企業価値の持続的な向上に努めるとしたが、特定の株主との対話状況については回答を控えた。
京セラの現経営陣に厳しい目を向けるのはオアシスだけではない。19年以降、山口氏と谷本氏の取締役選任案への賛成率は下落を続けてきた。京セラでは定時株主総会で取締役の選任が諮られるのは2年に1度となっている。

株主の投票に影響するとされる米議決権行使助言会社も両氏の取締役選任には厳しいスタンスだ。
インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、経営陣にはROEの停滞や資本配分の不適切さについて責任があるとし、山口・谷本両氏の選任に反対を推奨する。グラスルイスは山口氏に対して政策保有株を持ちすぎているとの観点などから反対を推奨する。
ブルームバーグ・インテリジェンスの本間靖健アナリストは、京セラの取締役候補の構成はコーポレートガバナンス・コードの基準を満たしているが、一部機関投資家が定める経営指標については満たしていないと指摘。「ISSやグラスルイスに限らず、日本の有力機関投資家が反対票を投じる可能性が出てきている」とした。両氏の再任可能性については「以前ほど高くないだろう」と述べた。
東芝、太陽HD
ガバナンスを重視する傾向が強まり、アクティビストの活動が活発化する中、近年は日本の大手企業の経営幹部が株主の支持を失い、取締役再任が危ぶまれるケースが出ている。
23年には取締役選任案で全員を男性としたキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長の賛成率が50.59%と過半数割れぎりぎりの水準まで落ちた。24年にはトヨタ自動車の豊田章男会長の賛成率も約73%まで落ちた。
21年には東芝の取締役会議長を務めた永山治氏が企業統治に対する株主の不信感の高まりから再任を否決された。直近では太陽ホールディングス社長を務めた佐藤英志氏も再任を否決されたが、現状では大手企業で首脳クラスの取締役選任が否決されるケースは珍しい。
--取材協力:谷口崇子.
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