日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収が1年半の紆余曲折を経て正式に成立したことで、最後まで買収完了を信じて疑わなかったサード・ポイントやペントウォーター・キャピタル・マネジメントなどの米ヘッジファンドは大きな利益を手にしている。

事情に詳しい関係者によれば、ダニエル・ローブ氏率いるサード・ポイントはこれまでに累計1625万株のUSスチール株を保有しており、今回の取引完了で保有株の価値は約9億ドル(約1300億円)相当に達した。同社は4月、投資家向け書簡の中で、予見するかのように買収成立の可能性が高いとの見通しを示していた。

主要株主であるペントウォーターも一貫してUSスチール株を持ち続け、保有額は10億ドル超に達している。他の大口投資家も恩恵を受ける見通しだ。直近の提出書類によると、トムズ・キャピタル・インベストメント・マネジメントは約6億ドル相当のUSスチール株を保有している。

ローブ氏は18日、「この取引は合理的すぎて、成立しない理由がなかった」と声明文で指摘。保有状況の詳細には言及せず、「われわれは産業的な論理が最終的には勝ると信じていた」と語った。

「何年も語り継がれるだろう」

今回の買収は2つの米政権にまたがったほか、労働組合の反対、2度にわたる対米外国投資委員会(CFIUS)の審査に直面するなど、複雑な案件だった。このため買収の成否に賭けるアービトラージ(裁定取引)戦略の投資家にとっては、極端なボラティリティーを伴う展開となった。USスチール株は一時、買収価格の1株当たり55ドルを大きく下回る27ドル近辺まで下落した。

価格変動に耐えて持ち続けた投資家にとっては大きな利益をもたらした一方で、1年半に及ぶ交渉期間の不確実性は、リスクアービトラージ戦略のトレーダーの多くに損失を与え、中には職を失う者も出た。

これは合併アービトラージの歴史の中でも「最も波乱に満ちた案件の一つだった」と語るのは、ウエストチェスター・キャピタル ・マネジメントの共同最高投資責任者(CIO)で、リスクアービトラージのベテラントレーダーであるロイ・ベーレン氏だ。同社は全ファンドおよび投資ビークルを通じて約190万株のUSスチール株を保有している。

「この案件は当初、信頼できる同盟国による『シンプルな』現金での買収だったはずが、大統領選をにらみ激戦州の労組票を狙う政治の道具になった。そして最後にはさらなる好条件を引きだそうとするトランプ大統領による再交渉にまで発展した」と、ベーレン氏は述べた。

ペントウォーターの創業者、マシュー・ハルボワー氏は「バイデン前大統領がやったことは間違いで、トランプ大統領がやったことはペンシルベニア州の人々にとって望ましいものだ」と評価。「最終的には理性が勝った」と述べた。

波乱含みの展開でボラティリティーが高まったことで、トレーダーにとっては、オプション取引戦略の創意工夫を可能にしたと、前出のベーレン氏は話す。

「この買収は完了まで2年近くかかったが、それでも持ち続けたアービトラージ投資家にとっては素晴らしい案件だった」と同氏。「私のキャリアの中でも指折り、かつ最も興味深い案件の一つであり、何年も語り継がれていくだろう」と語った。

 

原題:Third Point, Arb Funds Reap Big Gains as US Steel Bet Pays Out(抜粋)

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