大手商社の業績見通しが2日に出そろい、米トランプ政権が進める関税政策の影響で不透明感が漂い始めたことが明らかになった。資源市況の冷え込みや円高が重しになるが、各社とも累進配当と自社株買いによる強気の株主還元は維持する。

トランプ関税による業績へのリスクは、各社が今期の利益予想の不確定要因として織り込んだ。伊藤忠商事と住友商事は400億円、丸紅も300億円をあらかじめ利益予想から差し引いた。三井物産と三菱商事は金額を明らかにしなかったが、計画策定時に一定のリスクを考慮したと明らかにした。

商社にとって、米国内で完結する事業には追加関税が価格競争力につながる面もある。サプライチェーン再編の需要が高まれば、追い風にもなり得る。だが、世界経済や為替市況に与える影響は見通せず、各社はバッファーを設けることで不確実性への備えを厚くした。

住友商の上野真吾社長は記者会見で、世界景気の後退や成長の鈍化を前提に利益予想を引き下げたとし、恐慌のような劇的な変化がない限りマイナス影響は吸収できるとの見方を示した。

資源市況で明暗

今期の事業環境は原料炭や鉄鉱石、原油市況の悪化が逆風となる。想定為替レートは三菱商が1ドル=145円、ほかの4社が140円とするなど、前期に比べ大幅な円高になることも利益を押し下げる。

三井物は鉄鉱石と原料炭で290億円、為替の影響が620億円の減益要因となる。三菱商は前期に豪州の原料炭権益の売却益を計上した反動も重なり、金属資源部門の純利益は前期比半減を予想する。中西勝也社長は中国による供給増で原料炭価格が伸び悩んでいるとし、「金属資源は慎重に見ていく必要がある」と述べた。

一方、資源事業の割合が比較的低い伊藤忠は2年連続で過去最高を更新し、5社の中で最高の純利益を予想する。前期に完全子会社化したデサントの収益拡大や、干ばつでパイナップルの生産が減少していた「ドール」事業の回復など、消費者に近い川下のビジネスで利益を積み上げる。

強気の株主還元

不透明さが増す中でも株主への目配りには余念がない。各社とも累進配当を基本とし、自社株買いを含めた総還元性向も40%程度かそれを上回る水準を維持する。三菱商は1兆円の自社株買いを発表済みで、今期の総還元性向は200%程度に達する見込みだ。伊藤忠は年間配当を据え置いたが、自己株式取得枠は前期から200億円引き上げた。

大和証券の永野雅幸アナリストによれば、ロシアのウクライナ侵略を契機とした世界的燃料価格の高騰などで商社の業績は特に22年3月期から大幅に拡大した。財務体質が改善し、各社の優先事項は株主資本利益率(ROE)の向上にシフトしているという。

自社株買いで株主資本増加を抑制すれば、同じ利益水準でもROEは高くなるため、永野氏は商社が引き続き株主還元に動く可能性が高いと指摘。資源市況の悪化や為替変動を踏まえても「株価上昇の余地は大きい」と述べた。

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