(ブルームバーグ):米金融当局者は、労働市場がさらに軟化した場合でも、トランプ大統領の関税による持続的なインフレ高進リスクを最小限に抑えるため、政策金利を据え置く構えだ。
幾人かの当局者は公の発言やインタビューで、関税が招く景気減速への保険として利下げする可能性を排除する明確なシグナルを発している。
むしろ、インフレと米国民の物価上昇期待を抑制する方針を強調しており、失業率が大幅上昇しない限り、静観する姿勢を見せている。
ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は9日午前に公表された寄稿文で「長期のインフレ期待の抑制が極めて重要であり、関税が近い将来にインフレを押し上げる可能性が高いことを踏まえると、たとえ経済が弱含み、失業が増加する状況になったとしても、利下げのハードルは高くなる」と指摘。「関税により、フェデラルファンド(FF)金利を上下いずれかに動かすハードルは高くなった」とコメントした。
連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は4日、トランプ氏の目まぐるしく変化する通商政策の影響を評価する中で、当局が政策行動を急ぐ必要はないとの見解を示した。
トランプ氏は2日の関税措置発表以降に金融市場が動揺したのを受け、9日午後に多くの貿易相手国・地域対する上乗せ関税の適用を90日間停止した。
クリーブランド連銀のハマック総裁は同日午後のブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、自身も辛抱強くあることに専念していると述べた。
「今後の動向を見極める必要があるというのは当局にとっては実に積極的な選択だ」と述べ、「間違った方向に急ぐよりも、正しい方向に進むために待つ方がはるかに望ましい」と語った。
セントルイス連銀のムサレム総裁とクーグラーFRB理事は、インフレ重視の必要性を強調している。当局者はそれと同時に労働市場のモニターを続けていくと述べており、労働市場は今のところ堅調だと受け止めている。
トランプ氏の方針転換
トランプ氏の最新の関税計画では、大半の国は10%の基本税率が適用され恒久的なディール(取り決め)を交渉する余地が与えられた。このニュースを受け米株式相場は急伸した。
しかし、トランプ氏は中国製品に対しては関税率を125%に引き上げて高い障壁を維持。輸入品に対する関税の全体的影響はほとんど変わらないようにした。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の推計では、中国に対する関税を125%に引き上げ、それ以外の国々に対する関税を10%に引き下げることで、米国の平均関税率は27%から24%に低下するという。
BEのラナ・サジェディ氏らは、「われわれの理解が正しければ、今回の発表により各国の関税率は大幅に変化することになるが、米国の平均関税率はわずかに低下するにとどまり、依然として歴史的高水準にとどまる」と分析した。
米金融当局の様子見姿勢には複数の要因があり、関税に関連したインフレ加速が長引く可能性に備えたい考えだ。パウエル議長は関税がインフレ率を一時的に上昇させる公算が大きいとしながらも、影響はより持続的なものとなる恐れがあると述べている。
調査会社LHマイヤー/マネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミスト、デレク・タン氏は、「パウエル氏は持続的な物価安定という目標に集中しているのだろう。実際にはリセッション(景気後退)入りしていないのに、安全網を敷くつもりはもちろんない」と指摘した。
タン氏は年内の米利下げはないと予想し、「中長期のインフレ期待はかなり安定しているが、問題は価格ショックが起きたときに、どれだけ長く安定を保つことができるかという点だ」と付け加えた。
原題:Fed Leans Against Inflation and Away From Preemptive Rate Cuts(抜粋)
--取材協力:Catarina Saraiva、Maria Eloisa Capurro、Craig Torres.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.