10日の日本市場は株式を中心にリスク資産への回帰が鮮明になった。トランプ米大統領が報復措置を講じていない日本を含む一部の国や地域に対する上乗せ関税を一時停止すると表明したことを受けて、日経平均株価は歴代2位の上げ幅となった。

日経平均の終値は前日比2894円高と、過去最大を記録した昨夏に続く上げ幅になった。トランプ大統領は9日、日本を含む国・地域に対して上乗せ関税を90日間停止することを承認したと明らかにした。関税による世界的な経済・物価への懸念が後退、安全資産志向が巻き戻されて電機や銀行、自動車株を中心に買い注文が膨らんた。債券は10年債や先物が下落、円は対ドルで上昇した。

トランプ関税の影響が不透明として先月末からボラティリティー(変動率)の急上昇とともにリスク回避が鮮明だった金融市場は、いったん落ち着いてきた。同時に中国への関税は引き上げられており、世界1、2位の経済大国である米中の関税交渉を巡る不透明感は払拭されていない。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストらは10日付リポートで、世界全体に対する関税率(自動車除く)が非報復国への一時停止で当初想定より低下する試算を示し、金融市場はこれに一義的に反応したと指摘した。今後トランプ政権が中国の外堀を埋める一方で、日本を含む同盟・友好国とは交渉を進める可能性が高まったとみている。

株式

東京株式相場は大幅に反発。トランプ米政権による上乗せ関税の一時停止で米国株が大幅に上昇した流れを引き継いだ。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の急伸を受けて、半導体関連を中心に幅広い銘柄が買われた。

日経平均の上げ幅は2894円と、史上2位になった。7日から10日までのうち3営業日が歴代の上げと下げ幅の上位5位に入り、日本株のボラティリティーの高さを示している。

TOPIX33業種は全て上昇、指数値上がり寄与度では電気機器、銀行、輸送用機器が上位に入った。TOPIX構成銘柄は99%超が値上がりした。アドバンテストが14%上昇し、三菱UFJフィナンシャル・グループやトヨタ自動車も一時10%超値上がりする場面があった。

モルガン・スタンレーのジョナサン・ガーナー氏らは上乗せ関税一時停止について、世界的な景気後退の可能性を下げ、アジアの株式全体にとって強気材料と10日付のリポートで指摘した。日本は米国との交渉に最初に挑む国になる可能性などから、「日本に最も強気の材料になる」とした。

大和証券の坪井裕豪チーフストラテジストは日本株について「金融不安やリセッション(景気後退)を織り込む株価の水準までいっていた」と指摘。関税の一時停止を受けて「そこまでの織り込みは必要なかったのではないかと巻き戻しが起きている」と述べた。景気の見方が大きく持ち直し、金融や非鉄、輸送用機器など関税・景気敏感業種が強いと話した。

債券

債券相場は先物や中長期債が大幅安。トランプ米大統領が上乗せ関税策を90日間停止すると発表してリスク回避の巻き戻しの売りが優勢だった。この日の5年国債入札が強い結果となったことは相場を下支えした。

岡三証券の長谷川直也チーフ債券ストラテジストは、5年債入札は応札が増えて強めだったと指摘。「先行き不確実な状況は変わらないので、金利が0.9%台前半の水準は買いで悪くないと判断したのではないか」と指摘。警戒されていた入札を順調にこなしたことで債券相場はいったん落ち着いていくとの見方を示した。

入札結果によると最低落札価格は100円25銭と、市場予想100円18銭を上回り、小さいと好調を示すテール(落札価格の最低と平均の差)は4銭と前回の7銭から縮小した。投資家需要の強弱を反映する応札倍率は3.84倍と前回の3.17倍から上昇した。

新発国債利回り(午後3時時点)

為替

円相場は1ドル=146円台後半に上昇。米関税の一時停止によるリスク回避の巻き戻しで急速に円安が進んだ反動が出ており、全体的なドル売りが円を押し上げた。米長期金利が時間外取引で低下する一方、円長期金利は上昇し、日米金利差の縮小も意識された。

三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリストは「総じてドル安の展開がドル・円にも影響した」と指摘した。一方、米関税政策については「市場はまだ慎重だ」として、リスク回避の巻き戻しで円売りが進む状況ではないと話した。

ソニーフィナンシャルグループの森本淳太郎シニアアナリストは、上乗せ関税の90日間の交渉がトランプ大統領の期待する通りに進まなければ再び関税の懸念が高まると述べた。中国に対する高率関税もあり、「市場のリスクセンチメントは少し改善した程度ではないか」との見方を示した。

この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。

--取材協力:横山桃花、山中英典、船曳三郎.

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