7日の日本市場はトランプ米大統領の関税政策による「貿易戦争」への不安からマネーのリスク回避が鮮明になった。日経平均株価は史上3番目の値下がり幅で、相場低迷を示唆する「弱気相場」入りした。

株式は全面安で日経平均は2023年10月以来の安値に下落した。主要な株価指数先物は、取引が一時停止されるサーキット・ブレーカーが発動された。リスクオフから債券が買われ、円は上昇した。トランプ関税に報復する形で中国は米国からの輸入品全てに34%の関税を課すことを4日明らかにした。

週明けの日本市場はトランプ関税の直接の影響に加えて、各国の対抗・報復措置による世界経済・物価への懸念に見舞われた。リスク回避志向は強く、安全資産とされる金も下落した。投資資金の安全志向は欧州を含む海外市場にも尾を引きそうだ。世界の金融市場はトランプ関税で先週末の2日間にわたり株価は急落、金利は低下していた。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは7日付リポートに、中国の報復関税を受けて「金融市場が抱いている『世界貿易戦争』激化の懸念が刺激された」と記した。同時に対米関税撤廃を提案したベトナムを引き合いにして、足元の市場の警戒感には「やや過大な部分がある」と指摘した。

株式

東京株式相場は急落し、TOPIX終値は昨年8月以来の安値を付けた。関税の応酬による世界経済の混乱や減速への警戒が続くほか、為替の円高進行も嫌気された。TOPIX先物や日経平均先物は朝方に制限値幅の下限まで売られ、サーキット・ブレーカーが発動された。

日経平均の下げ幅は一時3000円に迫った。終値の値下がり幅は過去最大だった昨年8月5日と1987年の米ブラックマンデー翌日に続く、史上3番目になった。日経平均採用225銘柄の全て、TOPIXでも1690銘柄のうち99%超が安くなった。上げは5銘柄だけだった。

楽天投信投資顧問第二運用部の平川康彦部長は「関税の話をきっかけに投資家のリスクオフ姿勢が一気に強まっている」と語った。瞬間的には日経平均3万円割れもあり得るとしながらも、値幅調整がかなり進んだことで「ここからさらに指数全体が下がると弱気になる必要性は薄い」との考えも示した。

銀行や保険、証券など金融株が大きく売られたほか、電機や機械などの輸出関連や商社といった海外景気敏感業種も売りが継続した。東証全33業種が安い。

T&Dアセットマネジメントの酒井祐輔シニア・トレーダーは、中国の報復関税とトランプ氏が妥協するそぶりを全く見せていないことが織り込まれているだろうと指摘した。その上で、セリングクライマックスになりかかっている状態だと思うとしながら、リスクを取りにいける局面でもないとしている。

為替

東京外国為替市場の円相場は1ドル=145円半ばに上昇。一時144円台後半まで買われ、上昇率が1%を大幅に上回る場面があった。トランプ米政権の相互関税を受けて各国の報復措置や交渉長期化への懸念が強まり、株価が大幅に続落する中でリスク回避の円買いが強い。

三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリストは、ベッセント米財務長官などの市場動向をあまり気にかけていないような発言が早朝の円急騰につながったと話した。9日の上乗せ関税率適用を迎えた後でも交渉の余地はあり得るとして、ドル・円は「いったんセリングクライマックス的な面もあるのではないか」と述べた。

ソニーフィナンシャルグループの森本淳太郎シニアアナリストは、日本銀行の利上げ期待が後退する一方、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は利下げに慎重な姿勢で、日米金利差縮小を見込んで「いつまでも円高・ドル安ともいかない」とみる。

同時に日本はすでに対米関税率が低く、交渉に使えるカードは限られると指摘。「欧州はこれから報復関税の第1弾を発表するような状況で、まだ悪い材料が出てくる」として、ドル・円の上値は重いとの見方を示す。

債券

債券相場は大幅高。トランプ米大統領の関税政策を受けてリスク回避の動きが強まっており、安全資産である国債買いが継続した。内外の株価下落と為替の円高により、日銀の利上げ観測が低下していることも買い材料になった。

ニッセイアセットマネジメント戦略運用部の三浦英一郎専門部長は、日銀の利上げを見込んで売りポジションに傾いていた投資家が買い戻しを迫られていると指摘する。年内の利上げ織り込みが完全に消えれば、長期金利は1%を下回る可能性があるとみている。

金融(スワップ)市場が織り込む日銀の年内利上げ確率は一時1割程度に低下した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは「日銀の利上げ期待がさらに剝落する可能性を考えると、金利には一段の下げ余地があるとみることもできる」と述べた。

植田日銀総裁

長期国債先物6月物は朝方に1円30銭高まで上昇した後、一時22銭高まで上げ幅を縮小する場面があるなど動きの激しい相場となった。

アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎債券ストラテジストは、相場が大きく動くため注文を受ける証券会社やヘッジファンドなど短期目線の投資家は損失を抱え、損切りの売りやポジション解消が出やすくなっていると指摘した。

債券先物は即時約定可能値幅(ダイナミック・サーキット・ブレーカー=DCB)が発動されて寄り付きから4分間、取引が停止した。

新発国債利回り(午後3時時点)

この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています。

--取材協力:長谷川敏郎、船曳三郎、日高正裕、アリス・フレンチ.

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