(ブルームバーグ):トランプ米大統領が引き起こした貿易戦争が世界的なリセッション(景気後退)を招くとの懸念から、投資家が米国債に殺到している。この懲罰的な関税がインフレ再燃につながるリスクは、少なくとも現時点では軽視されている。
米国債相場が上昇し、2年債利回りが2022年以来の低水準を付けた。その後、トレーダーはさらなる相場上昇をにらんでポジション調整を進めている。米連邦準備制度が景気停滞回避に向け最も積極的な利下げに動く可能性拡大を織り込み始めた。
こうした強気な見方は短期的には正しいかもしれない。だがアルファシンプレックス・グループのキャサリン・カミンスキー氏によると、成長鈍化重視の投資家は、関税がインフレに及ぼす影響を巡るパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長発言を無視している。
同社のチーフストラテジスト兼ポートフォリオマネジャーであるカミンスキー氏は、「市場は成長鈍化と需要破壊の可能性に強く反応している」とした上で「連邦準備制度は難しい状況に置かれるだろう。成長減速を踏まえると利下げが適切だろうがインフレでそのプロセスが一段と複雑化するというものだ」と指摘。「市場は関税のニュースをかなりの悪材料と捉える方向に落ち着きつつあるようだ。現在は債券のロング(買い持ち)が正しい判断と考えられる」と述べた。

景気鈍化と物価高が重なるスタグフレーションは債券市場を一変させる恐れがある。パウエル議長は4日の講演で、関税が政策実施を難しくする可能性を認めた。
「関税はインフレを少なくとも一時的に押し上げる可能性が高いが、その影響はより持続的なものになる可能性もある」とした上で、金利調整を急いでいない姿勢をあらためて表明した。
ただ26年にかけた連邦公開市場委員会(FOMC)会合関連の先物取引では、12月までに想定される利下げ回数はこれまで3回未満だったが、4回近くにシフトした。一方、先週の他の先物取引では、連邦準備制度はゆっくりとしか動かず、結果的に来年、より大幅な利下げが行われると予想されている。
インフレ動向を注視
こうしたポジションは金融当局者が厳しい状況に追い込まれていることを示す。当局者は関税発動に伴う短期的なインフレショックを注視する。次の利下げ予想を6月から来年に先送りしたモルガン・スタンレーの米国担当チーフエコノミスト、マイケル・ゲーペン氏も、この点を強調する。
JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「利下げを控える期間が長くなるほど、米連邦準備制度は全体としてより多くの実施が必要になる」とみる。
相互関税が発表された2日以降、投資家は米国が景気後退入りする可能性を視野に債券に避難してきたことは明らかだ。
2年債利回りは22年9月以来の低水準となる3.5%付近で推移する一方、10年債利回りは一時、昨年10月以来となる4%割れとなった。週明け7日のアジア市場で指標の10年債利回りは一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下して3.88%となった。
パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)グループ最高投資責任者(CIO)のダニエル・アイバシン氏は「マクロ経済が極めて不透明な時期にある」とした上で「インフレ率が高止まりし、さらに上昇する可能性が高いことを考慮すると、このショックの性質は、ここ数十年の他のショックと異なる」と警告した。

原題:Treasuries Star as Haven Even as Trump Fans Stagflation Worries(抜粋)
(中見出し以降を追加して更新します)
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