(ブルームバーグ):2月の名目賃金は38カ月連続で前年を上回った。基本給に相当する所定内給与も増加基調を維持しており、賃金と物価の好循環が引き続き強まっていくとする日本銀行の見通しに沿った動きが続いている。一方、実質賃金は2カ月連続のマイナスとなった。
厚生労働省が7日発表した2月の毎月勤労統計調査(速報)によると、名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は前年同月比3.1%増と、前月(1.8%増)から伸びが加速した。市場予想は3.0%だった。所定内給与は1.6%増加。物価変動を反映させた実質賃金は1.2%減少した。
厚労省は1月に調査対象事業所の部分入れ替えを実施し、同月分の確報値から反映された。1月の入れ替えを行う前後の新旧結果を比較した場合、現金給与総額でマイナス0.9%の断層が生じたという。
エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目する共通事業所ベースでは、名目賃金は2.4%増だった。所定内給与は1.8%増。
今春闘の好調なスタートを受け、賃金上昇のモメンタム(勢い)定着への期待感は強い。一方、トランプ米大統領が発表した一連の関税措置を受けて世界経済の不確実性が強まっており、金融・資本市場が混乱する中で日銀の早期利上げ観測は後退している。日銀は経済・物価が見通し通り推移すれば利上げを継続する方針を維持しているが、米国の関税措置が経済・物価に与える影響を見極める動きが続きそうだ。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、所定内給与は想定より弱いが、昨年がうるう年だったのに伴う労働時間減少やサンプル入れ替えの影響による特殊要因の面が強いとし、「賃金の実勢が弱まったと判断するのは時期尚早」と指摘。米関税措置でも今年の基本給の基調が3%近くになるという点は変わらない一方、製造業の収益には影響が出るとし、「来年の春闘への影響が警戒される」と語った。

トランプ米政権は日本時間3日、相互関税の詳細を発表するとともに、自動車への追加関税を発動。日本に対しては相互関税で24%、自動車関税で25%を課す。
日銀の植田和男総裁は4日の衆院財務金融委員会で、米国の関税措置導入で「内外の経済・物価を巡る不確実性が高まった」と指摘。米関税の影響で経済状況が急変した場合の対応を問われ、外部環境が大きく変われば日銀の経済・物価見通しも変化するとし、「それに合わせて適切な政策対応をとっていきたい」と語った。
ブルームバーグのデータによると、米相互関税の発表後、金利スワップ市場で5月会合での利上げの予想確率は2日時点の14%から1ケタ台に低下。3月会合前にブルームバーグが実施したエコノミスト調査では、次の利上げ時期は7月が48%と最多で、6月が15%、5月と9月が13%だった。
好調な春闘
今年の春闘も高水準の回答が続いている。連合が3日公表した第3回回答集計によると、平均賃上げ率は5.42%と最終集計との比較で34年ぶりの水準を維持。中小組合の賃上げ率は5.00%で、前回集計から上昇して5%台を回復した。
一方、1月の実質賃金はマイナス幅が前月から縮小した。実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は2月に前年比4.3%上昇と電気・都市ガス代の補助金復活で伸びが前月から鈍化したことが影響した。
(エコノミストコメントとチャートを追加して更新しました)
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