(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁は4日、米関税政策は内外経済の下押し要因になるとした上で、外部環境の変化に伴う見通しの修正に合わせて適切に政策対応を行う考えを示した。衆院財務金融委員会で答弁した。
植田総裁は、米関税の影響で経済状況が急変した場合の対応を問われ、外部環境が大きく変われば日銀の経済・物価見通しも変化するとし、「それに合わせて適切な政策対応をとっていきたい」と語った。データや情報を踏まえて毎回の金融政策決定会合で議論し、内外の経済・物価情勢や市場動向などを丁寧に確認し、政策運営に反映させていく姿勢を示した。

米関税政策の影響については、自動車関税と相互関税の導入によって「内外の経済・物価を巡る不確実性が高まった」と警戒感を一段と強めた。世界・日本経済にとって下押し圧力とする一方、物価への影響は供給側の要因も含めて上下さまざまだとし、現時点では一概に評価はできないと語った。
トランプ米大統領が表明した関税措置を受けた不確実性の高まりで金融市場も急速に不安定化しており、堅調な賃金・物価を背景とした日銀の早期利上げ観測は後退している。植田総裁は関税政策が内外の経済・物価に与える影響や市場動向を注視し、政策正常化を慎重に進めていく考えを示唆した。
トランプ米政権は日本時間3日、貿易相手国と対等の関税率を求める「相互関税」の詳細を発表した。午後には自動車への追加関税も発動した。日本に対する相互関税率は24%、自動車関税は25%となっているが、ホワイトハウスによると、自動車と自動車部品は相互関税の対象からは除外される。
相互関税が事前の想定よりも厳しい内容となったことから、日本経済に深刻な影響が及ぶ可能性があるとして、追加利上げの時期は先送りされるとの見方が市場で広がっている。
4日の日本市場は米関税政策による世界経済への影響が引き続き懸念され、安全資産へのマネー逃避が鮮明だ。債券が買われて新発10年債利回りは一時13ベーシスポイント(bp)低い1.23%と2月3日以来の水準まで急低下。株価は連日の大幅安となっている。
また、植田総裁は1日公表された3月日銀短観について、企業の業況感は全体として良好な水準を維持しているとし、「日本経済が緩やかに回復しているとの見方に沿ったもの」との認識を示した。ただ、回答期間の関係で、米相互関税など最近公表された措置が十分に織り込まれていない可能性を留意点に挙げた。
短観では、大企業製造業の業況判断指数(DI)がプラス12と4四半期ぶりに悪化した。一方、価格転嫁の進展などを背景に大企業非製造業はプラス35と2ポイント改善し、1991年8月調査以来の高水準となった。
他の発言
- コメ価格、前年比でみた上昇率は次第に低下する可能性が高い
- 食品価格上昇、天候以外の要因が関係している可能性がある
- 食品価格上昇、消費マインド・予想物価上昇率への影響留意
リスクと確度
植田総裁に先立って同委員会で答弁した内田真一副総裁は、景気の改善が続き、基調的な物価上昇率が2%に向けて高まっていくとの見通しが実現していけば、「政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と改めて表明した。
その上で、見通しが実現していくかどうかを毎回会合で「予断を持たずに点検していく」と述べた。関税政策の影響を含めて内外の経済・物価情勢、金融市場の動向などを丁寧に確認し、見通しのリスクや見通しが実現する確度を点検して適切に判断していく考えを示した。
(発言の詳細を追加して更新しました)
--取材協力:氏兼敬子、上野英治郎.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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