(ブルームバーグ):米シリコンバレーではつい最近まで、ハービーのような新興企業は軽視される存在だった。対話型人工知能(AI)「ChatGPT(チャットGPT)」を手掛けるオープンAIがほぼすべての業界を揺るがし得る最先端AIモデルを開発して注目を浴びる中で、ハービーは黒子のような役回りを担う。弁護士にとって、オープンAIの技術を一層役立つものにするためのソフトウエアを構築することだ。
ハービーのウィンストン・ワインバーグ最高経営責任者(CEO)は「当社のような企業を市場はGPTラッパーととらえていた」と話す。ラッパーとはChatGPTのようなAIモデルの再パッケージ化を行う企業を指し、ばかにしたようなニュアンスを含む言い回しだ。投資家が何かに資金を投じるつもりなら、「オープンAIかアンソロピックに投資する必要があった」とワインバーグ氏は述べた。
だが、この「AIラッパー」がここにきて勢いを増している。シリコンバレーのベンチャーキャピタル企業の間では、AIチャットボットや研究ツール、コーディングや臨床、顧客サービス向けなどのソフトウエアを提供する新興企業の話題で持ちきりだ。こうした ソフトウエアはすべて、他のAI企業が開発した大規模言語モデル(LLM)を少なくとも部分的に活用して構築されている。
AIラッパー勢の収益と評価額もうなぎ登りだ。しかも、コストは多くの場合、先端AIモデルの開発企業が半導体やデータセンター、人材などに投じる費用よりもはるかに少ない。2022年創業のハービーは12月に継続売上高が年間5000万ドル(約74億1000万円)を突破したとワインバーグ氏は述べた。人気のコード編集ツール「カーソル」を開発した新興企業エニスフィアも、継続売上高が年間1億ドルに達したと、事情に詳しい人物が匿名を条件に語った。エニスフィアはコメントの要請に応じなかった。
ライトスピード・ベンチャー・パートナーズのパートナー、マイケル・ミニャーノ氏は、足元のAI業界の状況を、約20年前に起こったスマートフォン向けのアプリブームに重ねる。「iPhoneの発売後、数百万ものモバイルアプリが誕生した」と同氏。「今回はAIとLLMにより、数百万もの新たなAI製品が生まれるだろう」と続けた。同氏はオープンAIやアンソロピックの技術を使用したAIノート作成サービス、グラノーラの投資家でもある。

AIラッパーへの投資意欲も高まっている。ハービーは今年、30億ドルの評価額で、セコイアが主導するラウンドで3億ドルを調達した。エニスフィアは1月、スライブ・キャピタルとアンドリーセン・ホロウィッツが主導する資金ラウンドで1億500万ドルを調達。評価額は25億ドルだった。
オープンAIやアンソロピックに対するベンチャーキャピタル(VC)の投資意欲も依然として旺盛だ。だが、同時に評価額も切り上がっており、一部の投資家にとって出資は割高になりつつある。また低コストで高性能のAIモデルを開発したと主張するDeepSeek(ディープシーク)の登場で、AI企業が巨額投資を続けることの妥当性を巡っては疑問も生じている。
新興企業デカゴンのジェシー・チャンCEOは「現時点では、アプリに投資するのが最善の策であることは明らかだ。収益があり、顧客もいる」と話す。同社はアンソロピックのモデルを一部使用して顧客サポートAIエージェントを手がける。「モデルは一段と良くなり、安価になる」と同氏は述べ、アプリはそうした改善から最も大きな恩恵を受けるとの見方を示した。
原題:Hottest AI Firms Are App Startups That Make Models More Useful(抜粋)
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