(ブルームバーグ):
ウォルト・ディズニーの最新マーベル映画では、米国は開戦の瀬戸際に立たされている。中国でもロシアでも、ましてや北朝鮮でもなく、日本との戦いだ。
ちょっと待ってほしい。アジアにおける米国の最も緊密な同盟国であり、米国との安全保障条約を防衛政策の基盤としている国との戦争とはどういうことか。
「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」が描く日米対立は、アダマンチウムという新元素の発見と関係があると説明されている。マーベルコミックスのファンならアダマンチウムが何か知っているだろう。「X-MEN」リーズに出てくるウルヴァリンの骨格を構成する破壊不能の金属だ。日米は共にこの貴重な資源を狙っているが、両国首脳間の信頼関係が崩壊し競争が激化しているというストーリーだ。
インド洋のどこかでこの資源が発見されたとの筋立てを考えると、1万キロメートル離れた日本がどのように関わるのか、首をかしげたくなる。それだけでなく、多くの疑問を生じさせる映画だが、最大の問題はこうした紛争に関与する可能性が最も高いのは実際にはどの国か、ということだ。
この映画で描かれる日本は、現実の世界での中国であることは明らかだ。何度か脚本が書き換えられ、撮り直しされた後で、日本が中国に取って代わることになったのかもしれない。
昨今は愛国的な感情に敏感な観客を映画館に呼び込むことが、ハリウッド映画の成功には不可欠だ。それを踏まえれば、中国を日本に置き換えることは、その描写がどれほど現実味を欠いていたとしても観客は気にしないだろうという点で、ある程度理にかなっているとは言えそうだ。
その結果、キャプテン・アメリカでは現代の軍事大国としての日本という極めて珍しい描写が登場することになった。日本政府の防衛予算は確かに世界有数の水準だが、戦車や戦闘機が怪獣の強さを示すための道具として登場する「ゴジラ」シリーズを除き、日本の軍備が映画で描かれることはほとんどない。
当たらない未来予測
フィクションですら、こうした描写を見つけるのは難しい。キャプテン・アメリカに出てくる戦闘機が米軍の軍艦を脅かす場面は、ジョージ・フリードマン、メレディス・ルバード両氏が1991年に発表したノンフィクション「ザ・カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン: 第二次太平洋戦争は不可避だ」を想起させる。
この本でも、米国と最も緊密な関係を持つ同盟国の1国が巻き込まれる商品が引き金となる紛争のアイデアが同様に提示されている。しかし、ここでも中国は懸念事項ではないようだ。数十年後の未来を予測している著者だが、中国にはほとんど言及していない。
ディズニーが中国をストーリーから除外する理由が単に金銭的な懸念だとすれば、フリードマン、ルバード両氏にはむしろ盲点があるように思われる。
地政学に携わるフリードマン氏は2010年、「第三次世界大戦」を巡る考察で、中国が「内部の社会的ストレス」と貧困により「分裂」し、日本とトルコ、ポーランドが世界の大国となり、潜在的な紛争の火種となるだろうと分析していた。
言うまでもなく、この本は古びてしまった。軍事大国として台頭する日本というシナリオを描いた著者は、日本が1990年代に軍事力を強化するために防衛費を国民総生産(GNP)の5-7%相当に増やすと考えていた。それほどまでの軍備増強は今日ですら政治的に極めて難しいとは想像できなかったのだろう。
それでも、冷戦後の世界における日本の位置付けにおいて、合理的な思考実験として出発したこの本は、少なくとも、日本が独自の目標と野心を持つ国として扱われる世界を描こうとしている。
その予測はすぐに、資源や海上交通路を巡る日米間の紛争に発展するが、その荒唐無稽さにもかかわらず「不可避」と見なされている。一般的に欧米各国による日本の描写は、その逆であることが多い。すなわち、全く自主性のない国という見方だ。
歴史には時代遅れとなった予測や評価が数多く存在する。つい数年前まで、米国と北朝鮮の衝突が差し迫っていると、専門家らは大真面目に警告。市場は、北朝鮮からのコメントやミサイル発射のたびに一喜一憂していた(フリードマン氏も当時、「朝鮮半島での軍事行動の可能性が高まっている」と主張していた)。
最近では、むしろ、米朝衝突の可能性はほとんど無視され、特に欧米の関心はごく一部の地域に限られているようにしか見えない。2022年より前、ロシアが14年にクリミアを併合した後でさえ、ウクライナでのさらなる紛争を否定する声は多かった。
23年10月にイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃するわずか1週間前、当時のサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は中東はここ数十年で「最も平穏」だと述べていた。米作家ヘミングウェーの言葉を借りるなら、地政学的な変化にはパターンがある。「徐々に、そして突然」やって来る。
それでも、世界で今見られるようなペースで従来からある規範が崩壊しているとしても、日本が将来の戦争の火種となるというのは考え過ぎだろう。スーパーヒーロー映画は現実を忘れさせてくれる。しかし、そこで描かれるのは放射能に汚染されたクモから超能力を得るといったとっぴなコンセプトに過ぎない。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:A US War with Japan? Only in ‘Captain America’: Gearoid Reidy(抜粋)
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