高田委員は、政策委員会の中では中立的なスタンスに位置づけられる。今回の
挨拶・記者会見では、どちらかといえば景気・物価の上振れリスクを指摘。利上
げについては、時期やペースなどに関する具体的な言及を避けつつも、段階的
に実施する必要性を強調した。なお、政策の柔軟性を確保する観点から、中立
金利の水準の明示にはやや慎重であるようだ。
2025 年2 月19 日、日本銀行の高田審議委員は宮城県で開催された金融経済懇談会に出席し、挨拶および記者会見を行った。高田委員は、政策委員会の中では中立的なスタンスに位置づけられる。金融政策運営の正常化開始を決定した2024 年3 月の決定会合、および利上げを決定した2024 年7 月、2025 年1 月の決定会合では、いずれも賛成票を投じた。
今回の挨拶・記者会見では、どちらかといえば景気・物価の上振れリスクを指摘。利上げについては、時期やペースなどに関する具体的な言及を避けつつも、段階的に実施する必要性を強調した。なお、政策の柔軟性を確保する観点から、中立金利の水準の明示にはやや慎重であるようだ。
景気・物価について、高田委員は挨拶で1 月の展望レポートに沿った見解を紹介しつつ、上振れリスクを強調するなど、やや強気なスタンスが散見された。米国経済については、潜在成長率を上回る成長が続く中、雇用や物価動向が一段と上振れる可能性を指摘。米金利上昇、円安進展を通じて、日本の物価が上振れるリスクへの警戒を示した。このところ注目されているトランプ政権の関税政策については、特段言及がなかった。
物価については、上振れリスクを挙げつつも、現時点では2026 年度までの見通し期間後半にインフレ目標と整合的な水準で推移、すなわち「オントラック」で推移するとの考えを述べている。先行き、インフレ目標達成に近づくか否かのポイントとして、高田委員は従来から「前向きな企業行動」が続くか否かを重視している。具体的なチェックポイントとして、2024 年9 月の講演では、設備投資が堅調に推移することを挙げていたが、今回の講演では価格転嫁や賃上げが中小・地方企業に拡がることを挙げている。
高田委員は、引き続き「前向きな企業行動」の持続性が確認され、物価見通しが実現していけば、「一段のギアシフト」を進める方針を挨拶で示した。利上げの時期やペース、中立金利の水準については、記者会見で「先入観はない」と述べるなど、具体的な言及を避けた。ただ、挨拶では物価上振れリスクや金融の過熱リスクが顕在化しないよう「ギアシフトを段階的に行っていく」必要性を指摘、複数回の利上げを念頭に置いている可能性がありそうだ。
なお、中立金利について、日本では低水準の政策金利が続いたため、その推定が困難と断った上で、仮に一定の水準を示す場合、市場でフォワード・ガイダンスのようにとらえられる可能性があると指摘。政策の柔軟性を確保する観点から、中立金利の水準の明示にはやや慎重であるようだ。
情報提供、記事執筆:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト 宮前 耕也
2025年2月20日発行レポートより転載