(ブルームバーグ):トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に非難の矛先を向け、ロシアの全面侵攻開始から丸3年がたとうとするウクライナには望ましい選択肢が残っていない。
ゼレンスキー氏がとり得る選択肢は主に2つだ。最重要の支援国で兵器供給国でもあった米国の支持なしに、欧州が提供できる支援に頼ってロシアと戦い続けようとするのか、ロシアのプーチン大統領に急速に接近するトランプ氏が結ぶ合意をいかなる内容であれ受け入れるのかだ。
過去数カ月の間、ゼレンスキー氏は戦争の終結を公約するトランプ氏への接触を試みるとともに、和平合意につながる全ての議論への関与を求める自国の立場を堅持してきた。ところが、トランプ氏は先週、プーチン氏と電話で会談し、ゼレンスキー氏と欧州の同盟国には会談終了後にしか通知せず、ゼレンスキー氏は難しい立場に追い込まれた。
残っていた希望も、19日に完全についえたようだ。トランプ氏は同日、ロシアの主張をそのまま受け入れてゼレンスキー氏を「独裁者」と呼び、ロシアとの合意に「速やかに動く」か、「さもなくば、ウクライナはなくなる」とソーシャルメディアに投稿した。
プーチン氏への急接近と合わせ、トランプ氏の発言は強引な交渉戦術の可能性もあるにせよ、長年にわたる米国のウクライナ支持を劇的に否定しているように見受けられる。トランプ氏は19日夜のスピーチでウクライナ非難を繰り返し、ゼレンスキー氏が戦争の長期化を望んでいるとすら述べた。戦争で国土が荒廃し、数万人の犠牲が出ているのはウクライナであるにもかかわらずだ。
ウクライナを支持する米議員の一部は、トランプ氏の発言を裏切りだと批判し、欧州の支援国はゼレンスキー氏への支持をあらためて表明した。だが、合意に突き進むトランプ氏の動きを鈍らせるような具体的な行動の兆しは、あまり見えてこない。
「ウクライナに降伏を強いるなら、それは西側社会全体の降伏だ。この事実はあらゆる帰結を伴う」とポーランドのトゥスク首相はソーシャルメディアに投稿し、「そして、これを誰にも見て見ぬふりはさせない」と続けた。
米当局者はトランプ氏のアプローチを擁護した。
ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は「トランプ大統領は極めて迅速に事態を動かしている」とした上で、「起きていることの順序が気に入らない人もいるかもしれないが、双方を交渉の席に着かせるには双方と話し合う必要がある。それをわれわれはしている」とFOXニュースに語った。
ウォルツ氏は18日にサウジアラビアでロシア側と会談した米高官3人のうちの1人。この会談はウクライナや欧州の同盟国を排除して行われた。トランプ氏は同日、2月中にプーチン氏と会談する可能性があると考えていると述べた。今のところ、トランプ氏は残る対ウクライナ支援の差し止めへ公的な措置は何もとっていない。
カーネギー国際平和財団の上級研究員、クリストファー・チブビス氏は「トランプ大統領がウクライナを見捨てる決断を下す可能性は確かにあり、政権内にはそれに満足する人もいるだろう」と指摘。
「しかし、いまロシアと開始した交渉で出てくる合意を受け入れさせるため、ウクライナの姿勢を可能な限り軟化させようという交渉戦術の一部である可能性もある。合意は必然的に極めて難しいものになるからだ」と同氏は付け加えた。
ウクライナ軍はロシアを除いて欧州最大で、戦闘能力も最も高いが、情報や兵器、金融支援で米国に依存している。欧州も兵器を供給してきたが、米国に取って代わるために必要な軍や産業を持っていない。
「率直に言おう。米国なしでは、われわれにとって極めて難しくなる」とウクライナのブダノフ国防省情報総局長は19日、ポーランドの防衛情報ウェブサイト、ディフェンス24に述べた。
ゼレンスキー氏に対するトランプ氏の攻撃は、鉱物資源権益で米国に将来的に巨額の利益をもたらし得る取引に合意させようと圧力を強めている可能性もある。トランプ氏は先週、ベッセント財務長官をウクライナに派遣し、米国が経済支援の見返りにウクライナ内の鉱物資源の50%を取得する合意案を提示した。
だが、米国による支援の詳細が合意案に盛り込まれていなかったこともあり、ゼレンスキー氏は「まともな話し合いではない」として拒否。トランプ氏は19日、署名もされていないこの取引をウクライナ政府が「破った」と主張した。
原題:Trump Turns on Zelenskiy, Leaving Ukraine Few Options Amid War(抜粋)
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