(ブルームバーグ):米アップルの中国事業は暗い巳年(みどし)スタートとなった。2024年10-12月期に売上高が11%減り、スマートフォン「iPhone」販売台数は18.2%減少した。
トランプ米政権はアップルにとって最大の製造拠点である中国からの輸入品に新たな関税を課す方針を明らかにしており、アップルがその影響を免れることができるかどうかは依然として不透明だ。
一方では、中国政府が本土のアプリストアの手数料と慣行に関する調査を検討していると報じられている。
そうした中で、中国にアップルの人工知能(AI)「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」を投入するため同社と協力すると中国電子商取引大手のアリババグループが確認した。
アップルは待ちに待ったAI機能を米国などでスタートさせたが、パーソナルな生成AIサービスの需要が非常に高い中国市場で現地パートナーをなかなか見つけられず、苦戦を強いられていた。
投資家らは、アップルとの協力をアリババの大きな勝利と捉え、最初の報道で同社の株価は急伸。それでも、AI対応iPhoneの中国投入が、現地市場でアップルの業績を回復させるのに十分な効果をもたらすかどうかはまだ分からない。
アリババと組むことで、このプロセスがうまくいくとアップルは想定しているかもしれないが、地政学的な緊張が高まる中で、アップルインテリジェンスだけでは、同社が新たに直面する一連の障害を乗り越えるのに十分とは考えにくい。
第一、AI搭載のiPhoneはこれまでの宣伝でうたわれてきたような期待に応えていない。同僚のコラムニスト、デーブ・リー氏が指摘するようにその機能にアクセスした多くのユーザーの共有体験は「いら立ち」だ。
対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」で業界をリードする米オープンAIの支援を受けたアップルだが、AIの展開は全く同社らしくない。規制当局がアップルに中国へのAI投入を遅らせるよう迫ったことは、結果的に幸いだったと言えそうだ。
だが、同社が抱えるさらに大きな問題は、貿易戦争における駆け引きの材料として利用され得るという新たな立ち位置だ。
報道によると、アップルは中国当局が標的にできる米国のテクノロジー大手企業リストに追加されたという。米国が中国製品に10%の追加関税を課した直後、中国政府は米アルファベット傘下のグーグルに対する調査を開始した。
グーグルは中国ではほとんど事業を展開していないため、これは警告的な措置だと見なされているが、アップルは引き続き中国の消費者から大きな収入を得ている。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が、同社の中国製品を新たな対中関税の対象外にできるかどうかは今のところ不明だ。これまでのクック氏の交渉手腕を考慮すると、再び何らかの免除措置を勝ち取れる可能性はある。
免除が得られなかったとしても、アナリストらは最終的には何とか対応できるとみている。ただそれも、貿易戦争がエスカレートしなければという条件付きだ。
トランプ米大統領はかねてから、台湾製の半導体に課税する可能性を示唆しているが、実際にそうなればアップルには痛手だろう。半導体の受託生産で世界一の台湾積体電路製造(TSMC)は、ほぼ全てのiPhone向けプロセッサーを製造している。
米中の溝
こうした高まりつつある米中の緊張関係が、さらに深刻な影響を及ぼす恐れがある。中国で事業を展開する数少ない米国のテクノロジー企業であるアップルは、反米感情の標的となっている。
反発の一端は、中国で国内ブランドを選ぶ消費者の増加という形で顕在化。華為技術(ファーウェイ)を含む中国のスマホメーカーがすでにAI機能を提供していることも状況を厄介にしている。
クック氏は直近の業績発表時に中国での逆風について尋ねられ、「世界で最も競争の激しい市場だ」と答えたが、全くその通りだ。アップルが中国のスマホ市場で優位性を失う一方で、ファーウェイがシェアで首位に躍り出た。 そして、アップルにとって最も手ごわい競争相手は全て中国勢だ。
中国でのアップルインテリジェンス投入は好ましい動きだが、それは新たなゲームにおける1つの手でしかない。アップルはトランプ氏と中国政府、そして悪名高いほどの倹約家である中国人消費者を喜ばせる方法を見つけなければならない。
プラス面としては、もしテクノロジー業界でそうした課題に取り組む人物がいるとすれば、それはクック氏に他ならない。同氏は長年にわたり、聖書の言葉にあるように蛇のように賢く、鳩のように素直なスタンスで米中関係に巧みに対応してきた。
中国の一般市民と直接つながるSNS「微博(ウェイボ)」のアカウントを積極的に活用している数少ない米国のビジネスリーダーの一人がクック氏だ。
アップルは、こういった取り組みをさらに進める必要があり、上海で来月開催される開発者会議ではそのための十分な機会がある。同社がAI機能のアップデートを中国に導入する時期が早ければ早いほど、中国政府が最近打ち出した個人消費の活性化策から利益を得られる公算が大きくなる。
クック氏は、他のテクノロジー業界のエリートらと共にトランプ氏の大統領就任を歓迎した。そして、アップルは地図アプリ上でメキシコ湾の表記を「アメリカ湾」と素早く変更し、トランプ政権をなだめるような対応をした。こうした行動は、ディール(取引)を重視する同政権との関係を良好にする可能性がある。
アップルは長年、あらゆる方面に気に入られるよう綱渡りを続けてきた。その一方で、中国と米国の消費者向けテクノロジー企業が協力するという期待は、両国間の激しい対立によってほぼ消え去った。
しかし、中国のAIスタートアップDeepSeek(ディープシーク)を巡る最近の熱狂ぶりは、この溝が米国の損失につながる恐れがあることを示唆している。ここにきてオープンAIのサム・アルトマンCEOは「中国と協力したい」と述べ、「それは本当に重要なことだと思う」と強調した。
アリババとの連携は、アップルが中国で直面している全ての問題を解決するものではない。だが、必要とされている有益な相互関係は築けるだろう。それが、より広範な協力関係が可能だと政策当局に示す手本となるかもしれない。
(キャサリン・トーベック氏はアジアのテクノロジー分野を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。CNNとABCニュースの記者としてもテクノロジー担当しました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Alibaba Won’t Solve Apple’s China Problems: Catherine Thorbecke(抜粋)
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