日本を訪れる外国人観光客が今年4000万人に達するという予想が現実になるとつくづく感じたのは、新潟のスキー場に最近行った時だ。

新幹線の中では巨大なスーツケースが私の行く手を阻み、ホテル従業員は働き過ぎだし、運賃の支払い方が分からず戸惑う訪日客で出発できないバスも目の当たりにした。

東京の渋谷近くに15年ほど住んでいる私は、スクランブル交差点で写真を撮ることが国際法によって義務付けられているとしか思えない人々を毎日のように見ている。そのため、観光が日本にもたらした変化について、他の人よりも敏感に感じている。

海外からの観光客が私の行きつけのレストランやバーを占領し、店の中で子どもたちを走り回らせている。良識のある日本人の親なら決して許さない行動だろう。交差点の真ん中でセルフィーを撮るため立ち止まる観光客は、1日50万人という歩行者の流れを妨げている。

つまり、オーバーツーリズムに対し人々が抱くフラストレーションは、私の実体験でもある。訪日観光客に対する反発や敬遠する気持ちも理解できる。だが、それでも私は2020年代末までに訪日客を6000万人に増やすという政府の目標にもろ手を挙げて賛成だ。

日本の観光戦略が功を奏していることが、かつてないほど鮮明に示されている。24年の訪日客数は前年比47%増の約3700万人となった。新型コロナウイルス禍前のピークだった19年から16%増えた。

しかも、円安の影響もあり、24年のインバウンド消費はなんと19年比69%増の8兆1000億円に達した。ドル換算では500億ドル超えだ。30年代に入る前に1年で訪日客6000万人に1000億ドル近くを使ってもらうというのが政府の狙いだ。

その額を考えると、レストランでのわずかな不便は我慢していいのではと思うが、かつての日本を懐かしむのは日本国民だけではないようだ。訪日客がほとんどいなかった時代を知る外国人居住者から批判的なコメントがこのところ増えているのは気になる。

少子化に悩む他の国々同様、日本の人口が回復する見込みはなく、社会の高齢化に歯止めをかけることは難しい。観光業以外の選択肢はあるのだろうか。日本の観光戦略を批判する人々は、1000億ドルを補うどのような産業を想定しているのだろうか。

 

観光業頼みの国ではない日本だが、昨年の国内総生産(GDP)が前年比で減少した可能性がある中で、観光は必要な成長の大きな推進力となっている。

同じ規模の外国と比べると、日本にやって来る外国人観光客の数が極端に多いとは言えない。訪日客3400万人が平均7日間滞在すると仮定すると、日本の人口が約65万人多くなる日もあるとの試算すらある。

真の問題は3つだ。まず、訪日客受け入れの恩恵が明確に示されていないこと。そして、訪日客が特定の地域に集中し過ぎていること。3番目は、一般的にゆっくりと変化に対応するこの国において、訪日客の増加ペースが速過ぎること。

解決策は、観光大国としてあずかる恩恵を経済全体に行き渡らせることだ。訪日客から得る価値をもっと高める余地は十分にあるが、急激な観光客増加に追われる地方行政の対応は遅々として進んでいない。

京都市は最近、宿泊税の上限を1泊1000円から1万円に引き上げる方針を示した。1万円が課せられるのは、1泊10万円以上のホテルや旅館を利用した場合だ。

観光客が物価高騰を理由に訪日を控えているという証拠は全くない。19年と比較してホテルへの支出は倍増。円安効果よりはるかに大きい。もし、京都や渋谷のホテルが高過ぎると訪日客が感じるのであれば、むしろ好都合だ。別の場所に行ってみようという気になるだろう。

京都のような宿泊税の引き上げに及び腰の自治体があるとすれば、日本の居住者に課税しなければ、住民の理解を得られるのではないだろうか。

19年に導入された「国際観光旅客税」、つまり日本を出国する際に課される1000円の税金にも同じことが言える。この税は日本国民や居住者を対象にすべきではない。ビザ(査証)なしで入国できるという利便性の対価として、もっと金額を引き上げ、入国時に訪日観光客が支払う明示的な税金とすればいい。

そして、今のような免税制度は考え直そう。同一店舗における1日の購入額が5000円以上で、外国のパスポート(旅券)を提示すれば消費税が免除されるというこの仕組みは、免税基準額が低過ぎる上に抜け穴だらけだ。少なくとも、日本がもっと呼び込みたいと考えている富裕層には不要だ。

政府は、観光収入が国民に目に見える恩恵をもたらすことを説明する必要がある。そして、賢く課税すべきだ。日本のオーバーツーリズム問題は、その多くが賢明な政策によって緩和もしくは解決できる。例外があるとすれば、巨大なスーツケースだけだろう。

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(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan’s 100 Billion Reasons to Want More Visitors: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

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