(ブルームバーグ):トランプ次期米大統領のグリーンランドへの執着により、世界最大のこの島は、思いがけず世界のパワーゲームの間に立たされることとなった。
2019年、当時大統領1期目のトランプ氏がグリーンランド領有権獲得の野心を示した際には、単なる冗談と片付けられた。だが、今回はタイミングが絶妙だ。グリーンランド人はデンマークからの独立に向けた動きを強めている。3カ月以内に、デンマークとの関係の温度を測る総選挙が実施される予定だ。
グリーンランドは売りに出されてはいない。ただ、この新たな位置付けにより、米国とデンマークを競わせることのできる立場に立ち、その競争で最も利益を得るのは最終的にグリーンランドとなるかもしれない。
広大な氷床が溶けつつある中、グリーンランドの地政学的重要性は高まっている。米国と欧州の間に位置するこの島には、宇宙を監視しミサイルの脅威を察知する米軍基地がある。電子機器に使用される金、ダイヤモンド、ウラン、レアアースの埋蔵量も豊富だ。加えて、今後数十年の間に、世界的な海上輸送ルートの重要な一部となることも期待されている。
独立の機運
国際社会で新たな注目を浴びたことは、グリーンランドのデンマークに対する反感とともに、高まる独立運動の機運を後押ししている。デンマークは3世紀以上にわたりグリーンランドを統治してきたが、近年、植民地時代のデンマークによる悪事が次々と明るみに出ている。1960、70年代にグリーンランドの10代の少女たちに、デンマーク人医師が不妊を強制していたことが2022年に明らかになった。また、グリーンランド人は、今でもデンマーク人による人種差別を受けているとしている。

近く実施される総選挙は、独立が焦点となる可能性が高い。09年から採用されているグリーンランドの現行の統治構造では、グリーンランドは教育、医療、司法などの内政問題を管理する一方、外交、通貨、安全保障、憲法政策に関する事項はデンマークに委ねている。再選を目指しているエーエデ自治政府首相は新年の演説で、グリーンランドの「植民地時代の足かせ」を外すよう呼びかけた。この見解は、島民に広く共有されている。
こうした動きは、トランプ氏にも伝わっている。独立系外交安全保障アドバイザーで、デンマーク国防情報局の元主任アナリスト、ヤコブ・カースボ氏は「トランプ氏はグリーンランドの独立機運を確実に利用しようとしている。次の選挙後にグリーンランドがデンマークから離れるシナリオは大いに考えられる」と述べた。
グリーンランド独立への最大の障害は、経済的なものだ。グリーンランドは現在、市民に無料の医療や教育制度を維持する費用として、デンマーク政府から年間約6億ドル(約950億円)を得ている。同島の経済規模は21年時点で推計24億ドル程度で、独立を宣言した場合、経済的に支援してくれる新たなパートナーを見つける必要がある。そこにトランプ氏が登場する可能性がある。
南デンマーク大学の戦争研究センター教授で、デンマーク王立防衛大学の講師も務めるペーター・ウィゴヤコブセン氏は「もしトランプ氏がグリーンランドの人々により良い条件を提示できるなら、人口の大半が独立を宣言することは容易に想像できる」と述べた。
事情に詳しい関係者によると、トランプ陣営は11月以降、グリーンランドの潜在的なビジネスチャンスについて、民間部門と協議を重ねてきた。浮上している主要なプロジェクトにはレアアース採掘や新たな水力発電施設の建設などが含まれる。
有利な展開
すでに事態はグリーンランドに有利な方向に変化しているように見える。トランプ氏の長男、トランプ・ジュニア氏がグリーンランドの政庁所在地ヌークを7日にサプライズ訪問し、当地で5時間を過ごした翌日、デンマークはグリーンランドと、新たな水力発電プロジェクトの資金調達を支援することで合意した。12月には、トランプ氏がグリーンランドへの関心を表明したのと同時に、デンマーク政府は北極圏の防衛強化のための新たな投資を発表した。
デンマーク政府は外交政策においても、グリーンランドの意思決定権を拡大しつつある。デンマークのフレデリクセン首相は今週、地元放送局に対し「グリーンランドは彼らの国であり、未来を決めることができるのはグリーンランドだけだ」と語った。
デンマーク国際問題研究所のグリーンランド専門家、ウルリック・プラムガッド氏によると、グリーンランドの政治家たちは、仮に独立した場合にどのような国になるのか、曖昧なままだという。最終的に独立するとしたら、それはグリーンランドがどの国に、どのように頼るかを選ぶことを意味する。
ガッド氏は「まず第一に、独立が何を意味するのか、より明確にする必要がある」と述べた。
原題:Greenland Eyes Benefits in Trump’s Proposed Land Grab(抜粋)
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