カナダのトロント・ドミニオン銀行(TDバンク)は、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の一環として、ニューヨーク支店で新たに人材を採用した。

だが、マンハッタン地区の検察によると、その行員は内部データへのアクセス権限を乱用し、テレグラム上で犯罪組織に顧客情報を売っていた。同行員の携帯電話からは、顧客の小切手255枚の画像と、その他約70人の個人情報が発見されたという。

米銀行業界では最近、こうした内部関係者による不祥事が増えている。マンハッタンの高層ビルだけで起きているわけではない。その範囲はフロリダ州の拠点、さらにはルイジアナ州郊外にまで広がる。

老後の蓄えを狙った巧妙な詐欺事件が全米各地で報じられる中で、賃金の低い職種で働く銀行の従業員が部外秘の情報を外部に流出させるケースが相次ぎ発覚した。情報漏洩(ろうえい)のいわば裏口となっており、銀行のリスク管理における重大な弱点として浮上している。

貯蓄をだまし取られないようにする第一の責任は顧客にあると一貫して主張してきた銀行にとって、これは極めて厄介な状況だ。詐欺事件の多くは無作為に狙っているように見えるが、詐欺師が最初から財務状況について詳しく把握していたと話す被害者もいる。

米消費者団体パブリック・インタレスト・リサーチ・グループ(PIRG)のプライバシー擁護活動家、R・J・クロス氏は「社内で部外秘の顧客情報にアクセスできる従業員が増えるほど、その権限が悪用されるリスクも高まる」と指摘。「従業員や請負業者が個人情報を持ち出したり、職務上必要のないデータにアクセスしたりできないよう、企業側は技術的な対策を講じる必要がある」と述べた。

情報漏洩に対する対策強化は喫緊の課題だ。米国では老後に向けた退職者の蓄えが過去最高額に増えている。これを狙った詐欺が急増しており、その損失額は年間で280億ドル(約4兆4000億円)を超えると推定されている。詐欺師にとって、高額資産の所有者に関する情報は非常に有益だ。

一方、顧客保護や損失負担を企業側に強制する法案成立の阻止を求め、銀行ロビイストの活動は活発になっている。

しかし、内部関係者による最近の相次ぐ不祥事発覚は、銀行側が顧客情報の流出を阻止するための手だてをまだ見つけ出せていないことを浮き彫りにする。小切手の偽造などの不正で、共犯者とソーシャルメディア上でつながっているケースもある。 銀行は通常、被害者に全額を弁済することが多い。だが、近年ではより巧妙な詐欺が増加しており、顧客が損失を負担しなければならないケースも少なくない。

原題:Bank Insiders Are Leaking Data on Client Accounts as Scams Surge(抜粋)

--取材協力:Paige Smith.

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